2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年4月13日

 習は、両岸関係を決定づける唯一で最大の要因は、大陸側の「発展と進歩」である、とも主張している。中国は、長年、大陸での経済的繁栄の拡大が、台湾との人的交流と相俟って、台湾の人心を獲得し、自発的な統一に向かうことを希望してきたが、そのようにはなっていない。両岸の交流が歴史的水準に達しているにも関わらず、ますます多くの台湾人が、自らは「中国人」ではなく「台湾人」であると認識するようになっている。 習の発言は、中国がいまだに自らの発展によって台湾人の心を掴めるとの希望を持っていることを示唆している、と指摘しています。

出典:Shannon Tiezzi,‘Xi Urges Vigilance Against Taiwan Independence’(Diplomat, March 5, 2015)
http://thediplomat.com/2015/03/xi-urges-vigilance-against-taiwan-independence/

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 台湾における最近の各種世論調査の結果は、党派を問わず、来年1月の総統選挙においては、野党・民進党(蔡英文党主席)が勝利する可能性が大きいと予測しています。このような状況下で、中国側は民進党復権に対し警戒感を一段と強めつつあります。

 本論評は中国側が今後の中台関係の安定にとって、引き続き「92年コンセンサス」を中台関係を律する大前提にしようとしている、と指摘していますが、これはもともと予想されていた点です。

 中国は馬英九政権との間では、「92年コンセンサス」という同床異夢の条件下で、中台関係を処理してきました。中国にとって「92年コンセンサス」とは「中国は一つ」(中華人民共和国)ということを意味します。これに対し、台湾にとっては「中国は一つ、各自解釈」というものであり、「一つの中国」とは中華民国を意味します。

 民進党はこれまで、陳水扁政権を含め、独立を指向する政党として「92年コンセンサス」を受け入れたことがありません。習近平は最近の全人代において、「92年コンセンサス」が受け入れられなくなれば、中台関係は「激動する」(「地動山揺」)と恫喝まがいの発言を行っています。今後、蔡英文の主導下で、総統選挙に向け、民進党としてこの中国側要求に如何に対応するか、注目されます。

 今日の民進党にとっての最大の課題は、米国との関係を如何に円滑に処理するかです。かつて陳水扁政権下において米台関係はしばしばギクシャクしましたが、民進党が政権をとれば台湾海峡は不安定化する、というような単純な見方が米国内で広まることのないように、米国の支持を確保しなければならないでしょう。

 中台関係に対する台湾の民意の大勢は、昨年末の地方選挙や昨年3月の学生運動に見られたように、「現状維持」の大枠のなかで、中国と一定の距離を維持しながら共存することを目指しているものと思われます。そして、今日の民進党は「台湾独立」という長期的課題を前面に出す構えではありません。

  
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