2024年4月20日(土)

不況を生き抜く管理会計

2009年8月19日

フィットネスクラブ大手2社の売上高と当期純利益の推移
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 この両社の業績を見ると、健康ブームの追い風なのか、売上は順調に増加しているようだ。しかし当期純利益は揃って減少傾向にある。絵に描いたような「増収減益」という状態。これは一体どういうわけだろう?

出店戦略で増収も
ライバルとの値下競争によって減益

 フィットネス両社が増収減益となっている理由を解明するため、売上を「単価(P)と数量(Q)」に分解して考えてみよう。実は、両社が減益となっている大きな理由が「単価(P)の下落」と考えられる。最近、フィットネスクラブ各社はかなり値下げを行っている。入会金無料や数ヶ月割引といった広告を目にすることが増えた。また平日のみ・夜間のみといった時間制限付きの割引という値下げも行われている。

 ここで管理会計の基本に帰ろう。フィットネスクラブのコスト構造は典型的な固定費中心モデルだ。巨大な設備投資と維持費、そして人件費がほとんど。客1人に掛かる変動費はほぼゼロと考えてよい。したがって値下げの成功条件その1「商品1個当たりの変動費が少ないこと」ことはクリア。問題は成功条件その2「値下げによって販売数量(Q)が大幅に増加すること」をクリアできるかどうかだ。皆さんも考えてみて欲しい。

 まず思いつくのがキャパシティ(収容力)の限界だ。フィットネスクラブには受け入れる顧客数に上限がある。ホテルや航空機と同じくキャパシティの限界があり、大量の顧客を受け入れることが不可能だ。ロッカーやトレーニングマシンに待ち行列ができていたら、客はすぐ怒って離れていくに違いない。その1店舗当たりキャパシティ(収容力)の限界を、フィットネス両社は積極的な出店戦略によってカバーしようとしてきた。

 店を増やせばそれだけ売上の「量」は増える。しかし売上が増えても、利益という「質」が付いてくるかどうかは話が別だ。どんなビジネスであれ、値下げは「利益率の低下」をもたらす。この利益率の低下を数量増加によって補えない限り、利益額は減少することになる。売上が増えても営業利益は減ってしまうわけだ。もちろん各社はコスト削減も併せて行い増益を目指すわけだが、コストの削減にも限界がある。ライバルとの値下競争が進むフィットネスクラブ各社では、単価の値下がりを数量増加によって補うことができていないようだ。最終的な当期純利益の減益要因として「販売単価の下落」要因が最も大きいと考えられる。結局、フィットネスクラブ2社は固定費中心で値下げは可能であるものの、「値下げが利益増加につながらない」増収減益のスパイラルに突入しつつあるというわけだ。

巨大な固定費をどうやってカバーするか?

 フィットネスクラブに通った人はわかると思うが、入会費を払って会員になったものの、3日坊主で行かなくなる人は相当多い(かつての私もそうだった)。こうした幽霊会員はフィットネスクラブから見ればもっとも「おいしいお客」だ。実は各種勉強系スクールでも、幽霊会員の多さによって商売が成り立っているケースが多い。しかし、さいきんの健康ブームの高まりで幽霊会員が少なくなり、実際に通う人が多くなっている気がする。英会話や各種勉強系スクールでも幽霊会員は減ってきているようだ。不況になって真面目に勉強したい人が増えている。フィットネスもスクールも、だんだんと真っ当なビジネスになってきているわけだ。実際に通う顧客の売上によってコストをカバーしなければならない。


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