学びなおしのリスク論

2015年4月30日

»著者プロフィール
閉じる

漆原次郎 (うるしはら・じろう)

1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、科学技術関連の記事を寄稿。早稲田大学大学院科学技術ジャーナリスト養成プログラム修了。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。著書に『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』『日産驚異の会議』『宇宙飛行士になるには』など。

 「われわれが関心をもって見てきた数値を当たり前の尺度に捉えてしまいますが、そのものさし自体が歪んでいる場合もあるわけです」

 近年、各球団は、サンプル数が少なくてもシーズンごとの振れ幅の小さい数値で選手の評価をするようになってきているという。たとえば、打者であれば「長打率」。シングルヒットの本数に1。2塁打の本数に2。3塁打の本数に3。本塁打数には4。このように数字を掛けて、それぞれを足し合わせ、それを打数で割ったものだ。四球を選んだ数なども比較的安定的な尺度になるという。長打率と出塁率を足した指標はOPS(On-base Plus Slugging)として、打者の評価に使われている。

 投手に対する評価でも同様に、より安定した尺度があるという。9イニング投げた場合の平均奪三振数を意味する「奪三振率」や、おなじく平均与四死球数を意味する「与四死球率」などだ。

 「それにどんな打球を打たせるかも安定した尺度になります。たとえば、ゴロをよく打たせる投手は、翌年もよくゴロを打たせることが多いのです」。三振や内野フライでアウトをとれる投手はアウトカウントをとりやすい傾向があるという。

 球団の新戦力獲得は、まさに投資のリスクに対する成果のリターンとして如実にあらわれる。そうであればリスク変動の小さい尺度で評価をしたほうがよい。これは一般企業での人材評価にも当てはまりそうな話だ。

その常識がリスクテイクの効果を
高めるものかを考えなおす

 野球における戦術と戦略。岡田氏の話からもわかってきたのは、いかに人間が“いままで当然と思われてきたこと”を信頼しきっているかということだ。常識とは、意思決定を迅速に行う上での拠り所になる。だが、いままでの常識とは異なる尺度での意思決定で、リスクテイクを成功に導ける場合も、ある。

 「プロ野球の監督でも、送りバントで得点期待値が下がることをご存知の方はいるのではと思います。けれども、打者にただ単に打たせて点が入らないと、『この監督は策をとらない人だ』と思われる傾向があります。一方、バントをして点が入らなければ、『策をとっての結果だからしかたない』となります」

 当然と思われてきたことをしないで失敗が起きたとき、人は「なんで当たり前のことをしないのか」と考えてしまう。そのバイアスは思いのほか大きそうだ。

「人は、自分の選択が正しいということを前提に物事を捉えようとしがちです。でも、別の選択をする人もいる。自分とちがう選択をする人がなぜそうしようとしているのか。それを頭から否定せず、データによるアプローチで理解できる範囲が広がる可能性があります」

◎今回のまとめ◎
・定石と考えられている戦術の成果が、統計学的な期待値よりも低い場合もある。
・一般的に関心の高い評価軸が、その人の真価を示しているとは限らない。
・当然と思われている策を打たずに失敗をしたときのマイナス評価は大きい。たとえその「当然」が、統計的には正しいものでないとしても。

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る