2024年4月17日(水)

オトナの教養 週末の一冊

2015年5月22日

 冷静に考えてみれば、これは注目すべきポイントなのだろう。草の根レベルの人々が抱く互いの国へのイメージは重要で、それが結局、国と国との関係を規定することにつながるからである。

戸籍次第で、人生が変わる 
中国人のタブーにも肉薄

 もう一つ気付かされるのは、中国の社会ではいかに戸籍が大事かということである。中国に戸籍の問題があることは多少知ってはいたが、これほどまでに人々の生活を縛るものなのかという現実に、驚かされた。戸籍の内容によって、大げさにいえば一人一人の人生が変わるのである。子弟に都会で良い教育を受けさせたいと思う親にとっては切実な問題だ。中国の人々があまり語りたがらない問題についてもタブー視せず、問題を浮き彫りにした著者の取材姿勢に敬服する。

 本書は中国人の家族観や精神構造を知る参考書としても読むことができる。濃密な人間関係の中で社会が成り立っていることの良し悪しや、人と人が1回だけ会うという関係を「縁がなかった」と考える中国人と、「一期一会」を大事にする日本人との感覚は全く違うことなど、異文化理解の「勘所」を教えてくれる。同じアジアで、漢字を使う文化でありながら、日本とはかなり異質な社会であることを強烈に知らしめてくれる。こうした違いを頭に入れておかないと、国家レベルの政治や経済の交渉にも少なからず影響するだろう。

 訪日客の増加とともに、中国人のマナーの問題などが指摘されるが、著者の「社会を支えるインフラの質に大きく影響される」という指摘はうなずかされる。

 〈水道の水が出ないから手も洗わないし、いつもテーブルが汚れているから、自分も汚く使っていいと思ってしまう〉

 かつての日本も欧米からみればそうだったのかもしれない。インフラが整備されることで人々の行動様式も変化するという著者の見方はその通りだと思う。

 本書は数ある中国関連本の中でも、手軽に最近の中国の様子を知ることができる力作だ。欲を言えば、日本で大量に買い込んで中国に持ち帰った日本の製品が、実際にはどのように使われているのか、という点を詳しく知りたかった。多くの中国人旅行客を相手にする東京都心のホテル関係者は、「温水便座の正しい操作方法がわからないのか、トイレや部屋を水浸しにしてしまう人が多く、後始末に忙殺される」とぼやいていた。山のように買い込んだ日本の製品を、持ち帰った先できちんと使えているのだろうか。余計なことかもしれないが、そのあたりの事情も知りたいと思った。

  
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