2024年4月25日(木)

ヒットメーカーの舞台裏

2015年6月11日

 ところが、スペース内の結露という伏兵が船山を苦しめることとなる。野菜が眠りに至るまでの呼吸で水分を排出するのが原因だ。初期の試作段階でスリープ用スペース内は水びたし状態になったという。密閉空間なので、水分が蒸発しにくいのだった。

船山敦子 (Atsuko Funayama)(日立アプライアンス 開発センタ主任技師)
1967年生まれ。91年に宇都宮大学工学部を卒業し、日立製作所に入社。当初は冷蔵庫やエアコン、生ゴミ処理機の脱臭技術開発に従事。98年から冷蔵庫の鮮度保持技術開発の専任となった。97年に「臭気判定士」、2014年に「ジュニア野菜ソムリエ」の資格を取得している。

 なかなか解決策が見いだせない船山は、スリープ室の床面に水を溜め、ユーザーに捨ててもらう方式も考えた。だが、「水は腐敗しやすいし、何よりメンテナンスフリーにしないと受け入れてもらえない」と、見送った。

 苦闘が続くある日、思いついたのが専門外である空気清浄機のパーツだった。加湿用のフィルターであり、これに水を吸わせて冷気で蒸発させるとうまくいった。ただし、フィルターの量を含めた詳細設計には時間を要した。「とにかく、野菜を大量に買い込んで試行錯誤」を続けた。水分を多く含む大根を15本収容しても結露しない仕様とし、「うるおいユニット」と名付けた。

 家電の開発部門は製品ごとの縦割りであり、効率的だが柔軟性を欠くのも否めない。うるおいユニットは、かつてエアコンも担当し、脱臭技術などで清浄機部門と接点があった船山ならではのソリューションだった。(敬称略)

  
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◆Wedge2015年5月号より

 


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