2024年4月20日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2015年5月27日

 母国の発展を心から望む中国人が、民族間の対立を煽ることをよしとするはずがない。浦弁護士も然りだ。浦弁護士がインターネット上に書き込んだ言葉は上品とは言えないかもしれないが、浦弁護士なりの皮肉を込めながら、民族問題を解決するための方法が今のままでよいのか、より開かれた議論を呼びかけようとしている。

憲法第41条で保障されている公民の権利

 起訴状にある「申某」は全国人民代表大会(日本の国会にあたる中国の議会、全人代)の代表や労働模範(労働者として国民の模範となる人物)の申紀蘭、「田某」は鉄道部の下部組織である通信信号設計院の共産党委員会宣伝部長の田振輝を指すとみられる。浦弁護士は、申紀蘭が全人代代表として特段の成果を上げていないにもかかわらず、連続12期、60年もの間、代表に選任されていることに疑問を呈するコメントを書き込んだ。田振輝は2011年に多数の死傷者を出した温州市の高速鉄道の信号システムについて、説明責任を果たすべき部門のトップにいる人だ。

 中国の憲法第41条は、国家機関や国家公務員を批評し、国家機関や国家公務員に提言する公民の権利を保障している。

中華人民共和国憲法・第41条
第一項「中国人民共和国公民は、いかなる国家機関または国家公務員に対しても、批判及び提案を行う権利を有し、いかなる国家機関または国家公務員の違法行為及び職務怠慢に対しても、関連の国家機関に不服を申し立て、告訴または告発をする権利を有する。ただし、事実をねつ造したり、歪曲して、人を誣告したり罪に陥れたりしてはならない」

第二項「公民の不服申し立て、告訴、または告発に対して、関連する国家機関は事実を調査し、責任をもって処理しなければならない。なんびともそれを抑えつけたり、報復を加えたりしてはならない。国家機関または国家公務員によって公民の権利を侵害され、そのために損失を受けた者は、法律の定めるところにより、賠償を受ける権利を有する」

 政府の政策や政治家、国家公務員のあり方について批判が行われ、それが受け入れられるということは、その社会が民主的で健全であることを示している。申某や田某が申紀蘭および田振輝だとすれば、彼女たちは国民の批評を受けて当然の公的な職務に就いている人たちだ。さらに、申某及び田某は、「侮辱された」と自ら訴えたわけでもなく、田某については、仮にそれが田振輝だとすれば、浦弁護士は名前を明記せず、暗に彼女を批判しただけのようだ。


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