この熱き人々

2015年7月23日

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吉永みち子 (よしながみちこ)

1950年、埼玉県生まれ。85年、『気がつけば騎手の女房』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞。著書に『母と娘の40年戦争』(集英社文庫)、『怖いもの知らずの女たち』(山と溪谷社)、『試練は女のダイヤモンド』(ウェッジ)などがある。

画家志望から修復の道へ

 世界中の誰もが知っている名画が海外から日本にやってきて、日本国内の数カ所を回って、また次の国へと向かっていく国際巡回展でのコンディションチェックも修復家の重要な仕事。後世に残さなければならない世界の財産を他国から預かり、美術館に展示し、無事に何事もなく次の国に送り出す。恐ろしいばかりの緊張感が漂う現場なのだろう。

 「すべての作品がどのような状態で日本にきたかカルテをつくり、日本滞在中に変化がなかったというチェックをして送り出すわけです。作品だけでなく、貸出先の美術館の照度や温度、湿度などの環境が国際基準をクリアしているかどうかもチェックします。たとえば、光で劣化することを防ぐため、油絵は何ルクス、紙作品は何ルクスと照度が決められているんです。日本ではとにかく経費削減で、百点の作品のカルテを三日で作成しなければならないなんてこともあります」

 欧米には、何かあった時には国家補償の仕組みがあるが、日本ではまだ確立されていない。もし見落としなどあったら取り返しのつかない大変な事態になる。日本に貸し出す際のコンディションチェックに岩井を指名してくる海外の美術館もあるという。

 「海外では美術館に保存科学者と修復家が常駐する修復部門がありますが、日本には百館以上の国公立の美術館があっても、修復部門があるところは一館もないのが現状です。人類の遺産を保存しているという認識がなかなか育たないのが悲しくて情けないです」

 バブルが弾けたとか、リーマンショックだとか、経済の事情で修復予算はどんどん削られていく。残念ながら二十一世紀のいまでも、日本では絵を保護する修復という職域があることすら知っている人は少ない。

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