都会に根を張る一店舗主義

2015年6月10日

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 「でも、この店がちょっと不便なのがミソですね。だって、銀座にあれば、営業努力しないでしょう。銀座・有楽町・日比谷の地域に500軒あったという寿司屋が、200軒ほどに減ったそうです。この界隈も昔は20軒くらいあったんですが、今はうちくらいですよ。うちは、常連さんが9割ですから」

 また、回転寿司がゴールデンタイムにCMを流すほど繁栄し、業績を伸ばす一方、町の寿司屋さんはばたばたと潰れ、昭和56年に49826店だった一般店は、平成25年、28865店に減少、その傾向には拍車がかかっている。

 しかし、『高砂寿司』に来て思ったのだが、外国人の観光客が増え、和食が再発見される流れは、町の寿司屋さんにとって最後の巻き直しのチャンスかもしれない。

 それに敷居が高くないのは、やはり嬉しい。江戸に普及した寿司屋の原型は、屋台で売られるような庶民的なものだった。だから寿司も今よりずっと塩がきつかった。だが、その頃にも、すでに一部の有名店は、過剰な高級店化に走っている。

 そう思うと、二極化などと言われる現代に、地元のお年寄りが、孫にご馳走できるような寿司屋、私も外国人の友達におごれるような町の寿司屋は、大事にしたい。

 そして、地元の常連さんを大切にしながら、志高く、世界に発信するこんな店で、ちょっと贅沢な時間を過ごしながら、本物の和食文化は受け継がれていくのではないか。

 二度めの晩、ふらりと一人で入ってきた常連さんがいた。幼い頃から一緒に通った息子が、今や外国に留学中だという。彼は、一杯やりながら寿司を少しだけつまみ、ぼそっと、こう口にした。

 「近所に『高砂寿司』のある幸せってありますねえ」

  
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