2024年4月20日(土)

World Energy Watch

2015年6月10日

現実的ではない2030年の
エネルギー需給計画

 省エネ分野が限定されるなかで製造業を伸ばしながら、エネルギー消費を削減することは可能だろうか。設備更新を行っているドイツの製造業の付加価値額の推移とエネルギー消費の関係が図-12に示されている。効率の改善は行われているものの、その効果は年により異なり、また限定的だ。消費を削減するほどの効率改善は難しい。さらに、効率改善のためには設備投資が必要になり、利益率の低い投資額が増加する。今後20年間で想定されている効率改善は困難だろう。

 なぜ、実現が困難と思われるエネルギー、電力需給計画が策定されたのだろう。想像できる理由の一つは、温暖化目標の策定だ。2030年の温室効果ガスの排出目標を6月のG7で日本は提示する必要に迫られていた。欧米に遜色のない削減率とするために、政府は30年の排出目標を13年比26%減とした。この目標策定のためにはエネルギー消費の大規模な抑制を前提とするか、低炭素電源の大規模導入を進めるしかない。

 しかし、二酸化炭素の排出がほとんどない低炭素電源である原子力と再生可能エネルギーの利用も抑制せざるを得なかった。再エネの大量導入は電気料金を大きく上昇させる。電気料金の上昇は製造業の海外流出を招き、国内での経済成長に影響がでてくる。再エネではなく原子力を増やせば、電気料金を抑制しつつ二酸化炭素の排出も抑えられる。だが、政府は世論に配慮し原子力の発電比率を再エネ以下に抑えたかったようだ。このために、エネルギー消費を削減するしか辻褄合わせの方法はなかったのだろう。

エネルギー政策がもたらす
インパクト

 エネルギー政策を策定するためには、供給の安全保障、経済性、環境問題をバランスよく考慮することが必要だ。このバランスは、その時々により変化する。リーマンショックを契機とし経済情勢が悪化して以降、欧州では温暖化対策よりも製造業の成長、競争力に影響を与えるエネルギー価格が重要との声も強くなってきた。欧州委員会は温室効果ガスを90年比で30年に40%削減する目標を立てているが、一方20年までにGDPに占める製造業の比率を現在の15%台から20%に引き上げる目標も立てている。

 温室効果ガスの排出目標は、今年末に開催される国際会議(COP21)での各国の交渉の結果見直されることもあり得るとされているが、欧州の産業界などからは、エネルギーコスト、産業への影響を考えると、見直しの結果40%の目標値は引き下げられるべきとの声も強くなってきている。

 様々な要素を考える必要のあるエネルギー政策だが、失われた20年から立ち直っていない日本は、当面は製造業の成長を支えるエネルギー、電力供給と価格を目標とすべきだ。製造業の13年度の営業利益額は約16兆円だ。一方、震災以降の原子力発電所の停止により燃料費の購入が増えたことから、産業・業務用の電気料金は約30%上昇し、結果製造業の支払う料金総額は約1兆円上昇している。製造業の従業員の給与総額は13年度で約34兆円だ。単純計算だと、電気料金の上昇がなく、この分を給与に回せば3%の賃上げが実現していたことになる。

 電気料金を引き下げ、製造業の成長を促すことが、日本を取り戻す第一歩であることを念頭に、3年後のエネルギー需給計画見直し時点で、さらに現実的なエネルギー政策を策定する必要がある。

  
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