2024年4月21日(日)

安保激変

2015年6月12日

 それにもかかわらず、今回の法制では、例えば、新たに制定される「国際平和支援法」の中でも、「一体化」は回避することが大前提になっている。ミサイルの飛距離の伸び、サイバー攻撃のような目に見えない攻撃などをとっても、現代において武力行使が行われる状況で「前線」と「後方」、「戦闘地域」と「非戦闘地域」がはっきり分けられるという前提で議論することがナンセンスだ。

今の日本の状況は
アメリカから見ると非常に残念な状態

 このような今の日本の状況は、アメリカから見ると非常に残念な状態だ。4月27日の日米安全保障協議会(2プラス2)閣僚会合で、新・日米防衛ガイドラインが発表され、その中で、日本防衛やアジア太平洋地域での活動へのウエイトが引き続き多くを占めるとは言っても、日米防衛協力に地理的制約はなくなり、宇宙やサイバーのような新しい分野でも防衛協力を進めることが高らかに宣言された。

 その2日後に米連邦議会での演説で、安倍総理は安全保障法制を今年の夏の終わりまでに成立させると宣言した。アメリカで日米安保に長く携わってきた人は、誰もがこの、日本の積極的な姿勢を驚きと歓迎の気持ちで見ていたはずだ。

 ところが、実際に法制をめぐる国会での議論が始まってみると、国会における議論は「いかに自衛隊の活動に制約をかけるのか」「日本はアメリカの戦争に引きずり込まれるのではないか」という、1990年代に自衛隊を国連平和維持活動に派遣する前と殆ど変わらないものだ。

 「アメリカがやる戦争にまき込まれる」「自衛隊が派遣されている地域で戦闘が始まったら、直ちに活動を停止して自衛隊は撤収すべきだ」という議論に至っては、現在、東シナ海で緊張が高まっている状況を考えれば、アメリカが日中の衝突に巻き込まれるリスクの方が実は高くなっていることや、多国籍軍の一部となって活動しているときに、戦闘行為が始まったという理由で自衛隊だけが「一抜けた」をすることが日本の国際的信用に与える影響などは殆ど考慮されていない。つまり、せっかく政策面で2歩も3歩も踏み出しているのに、政策の実施に必要な制度の整備のために国内で行われている議論は冷戦直後の海部政権のとき、百歩譲っても9・11テロ事件後の小泉政権のときのままで止まったままなのである。

 しかも、そのような状況の中、5月28日〜6月5日まで、沖縄から翁長知事以下、総勢20数名の沖縄県会議員や自治体の首長とが訪米し、1週間もかけてハワイとワシントンで「普天間基地の辺野古移設反対」を米議員との懇談やシンクタンクでのセミナーなどで訴えて回った。アメリカにしてみれば、ガイドラインの見直しも普天間基地の移設も、もともとは日本側の強い求めに応じ、「強固な日米同盟と日本における米軍のプレゼンスが安定することが、米国の対アジア太平洋安全保障政策に資する」と考えたからこそ、同意したものだ。

 ところが、普天間基地の移設は、1996年に合意が成立してから20年がたとうとする今も、移設に向けた明確な道筋が見えていない。安保法制についても、法制度が整備されれば「出来ること」のメニューが増えるように見えるが、実際に法案が成立し、運用される段階に入ったときに、諸々の条件がついて、「結局、できません」ということが結果として多くなってしまう可能性もある。

 このような状況は、日米関係に長く携わり、日本の実情に詳しい、いわゆる「ジャパン・ハンド」なら、まだなんとか理解を示してくれるかもしれない。しかし、大多数のアメリカ人は「ジャパン・ハンド」ではない。日本がいくら、憲法の制約について一生懸命説明しても、「言い訳ばかり」と受け止められてしまう可能性は高い。「総理があれだけ色々約束して帰っていったのに、色々と言い訳ばかりで、結局、何も進まないじゃないか」――安保法制を成立させた後の日本がアメリカからこのような視線で見られる事態を、果たして日本は回避することができるだろうか。

  
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