2024年4月25日(木)

WEDGE REPORT

2015年6月22日

 朴槿恵大統領に報告された外交部の行動計画「統一時代を開くグローバル信頼外交」も「ドイツ統一過程から引き出せる全般的な教訓と示唆をよく活用していく」と述べた(15年1月)。

 これに対し中国が支持する北朝鮮の「自主」統一は一党体制を保全するもので、ドイツ型統一とは明らかに異なる。「外勢」排除の「自主」原則は決して米国の影響を受けた体制による吸収統一を許容しない。同原則に基づく統一国家は北朝鮮の体制が生き残る「連邦制」である。

北朝鮮はソ連・東欧の失敗から学んでいる(画像:gettyimages)

 「自主」を主張することは、一党体制の崩壊「プロセス」を再現しようとする企図への反対を意味しよう。複数政党制の統一国家を目指す朴槿恵政権に対し、むしろ中国は北朝鮮の一党体制を保全する従前からの立場、「自主」統一支持を繰り返し確認してきた。習近平と朴槿恵特使、金武星の会見(13年1月)、楊潔篪・国務委員の朴槿恵大統領との会見(同11月)、習近平の朴槿恵との会談(14年3月、7月)において「自主」統一支持を中国側が表明したと新華社は伝える。

 ヘルシンキ・プロセス再現の阻止で一致する中朝は何をすべきか。ソフト・パワーの効果的な行使の例としてジョセフ・ナイが挙げているように、米国は軍事力で東側体制を崩壊させたわけではない。ヘルシンキ最終文書で西側陣営はソ連の決めた国境線を受け入れたが、代わりに基本的人権の尊重を合意に書き込んだ。西側体制を正統化する人権を直接的に否定できなくなった結果、ソ連と東欧諸国は内部の反体制派増大という予想外の事態に直面した。

 この体制崩壊の教訓に基づけば北朝鮮は、南の体制を正統化する人権を「外勢」の攻勢手段として否定せねばならない。北朝鮮にとって国連北朝鮮人権委員会による問題提起も「反帝自主」の道に進む「我々の制度を転覆」する「米国の人権攻勢」と見なすべきものとなる(朝鮮中央通信、14年3月25日)。

 冒頭述べた米大使襲撃に関する北朝鮮の論評は、こうした姿勢を反映している。論評によれば北朝鮮の人権状況の改善を求める朴槿恵政権の政策は「反共和国『人権』謀略騒動」だった。「信頼プロセス」はまさに「米国が社会主義諸国を崩壊に追い込んだヘルシンキ・プロセス」を朝鮮半島に適用したものであり「自由民主主義体制による吸収統一」を実現する手段が「『従北』狩り」なのだという。


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