2024年4月26日(金)

山師の手帳~“いちびり”が日本を救う~

2015年7月7日

 世界需要がたった12万トンしかない小さなレアアース市場に日本政府がなぜか、過剰反応して大騒ぎになったことをこの際、見直したい気になっている。「戦い過ぎて日が暮れて」レアアースの市場に閑古鳥が鳴いている今こそ過去の5年間を総括したいのである。

なぜ日本はWTOへの提訴までして
中国に対抗したのか?

 日本は2012年3月にWTO(世界貿易機関)を通じて中国のレアアースの輸出制限行為を提訴した。殴られっぱなしの虐められっ子が珍しく対抗手段を講じたのである。2014年の3月にはこの提訴が認められて(時間はかかったが)中国のレアアースの不当行為は正されることになった。

マウンテンパスの選鉱施設

 資源貧国である日本にとっては初の快挙という評価もあるが、何事にも光があれば影もある。残念ながら日本政府が気前よく投融資をしていた、オーストラリアのライナス社からの利払いは早晩にも焦げ付く公算が出てきた。世界最大のモリコープの経営が破たんしたのであるから、新興企業のライナス社の経営が破たんしても誰も驚かないであろう。

 仮にWTO違反提訴が解決せずに続いていたと仮定すれば、レアアースの市況が暴落することはなかったとの意見もある。実に矛盾した話ではあるが、中国が輸出制限を続けてきた方がモリコープもライナスも高値でレアアース販売が出来るので経営状態が悪化することはなかったとの見方もあるくらいである。

 会議が終わってレアアース企業のロシアの友人が面白い見方を話してくれた。日本が中国に圧力を掛けて市況を安値に誘導し、米国とオーストラリアのレアアース企業が倒産しても、日本のレアアースの需要家は決して困らないのではないかとの意見である。彼は過去の5年間で最も得をしたのは日本であったと結論付けるのである。中国が高値政策をとったおかげで全世界が資源開発に奔走し、結果、競争原理が働いて日本は選り取り見取りの材料を入手することができたというのだ。 

 一方、喫緊の問題は日本政府(実際にはJOGMEC)がライナス社からの利払いの停止と、追い銭ともみられる再投資の依頼に対してどのように対応するのかである。

スペキュレーションとか
マニピュレーションって何だ?

 レアアースやレアメタルは市場が小さく資源が遍在しているために投機筋のおもちゃにされやすい特徴がある。発展途上国家では環境問題を言い訳にして資源政策の度重なる変更や特定の権益供与を通じて利益誘導を目的とする価格操作が行われることも多い。こうした市場ではスペキュレーション(投機)やマニピュレーション(価格操作)が日常茶飯に行われているといっても過言ではない。

 情報化時代が進めば進むほど巧妙な手口の操作が国家規模で行われているのである。私の発表の中で一番受けたのが「The whisper of the devil was stronger than a hand of concealed God」という下りであった。「見えざる神の手より悪魔の囁きが常に勝つ」というブラックジョークである。「見えざる神の手」とはアダムスミスの有名な経済理論であるが異常なバブル経済の前には「悪魔の囁く欲望」の方に軍配が上がるという意味である。

 17世紀のオランダで起ったチューリップバブルや1979年のハント兄弟の銀買占め事件は有名である。現代のレアアースバブルも例外ではない。そこで講演会では株屋のことわざを続けて披露した「If a mountain is high, the valley is deep」。すなわち「山高ければ谷深し」である。 

Buy the straw hat in winter season

 調子に乗って「Buy the straw hat in winter season」といったらどっと沸いた。誰でも思ってはいるが中々出来ない相場の極意である。「麦わら帽子は冬に買え」とは判っていても凡人には出来ない芸当である。私が一番言いたかったことはレアアースの相場は今が「大底」だという事である。

 今回から山師の手帳〜「いちびり」が日本を救う〜というタイトルにしたのには実は理由(ワケ)がある。私自身がレアアースやレアメタルを生業にして40年近くも「山師」の世界で生き残れたのは「いちびり精神」があったからだ。

 中国人やユダヤ人やアングロサクソン人とのビジネスに揉まれてきて悟ったことは「人のしないことをやる」べきだということである。「いちびり」とは「人のしないことをやるお調子者」のことである。レアアース会議を終えて帰国の途に就いた。飛行機の中で「いちびり精神」を発揮したアイデアが浮かんだ。それはいくらなんでも突拍子もないアイデアだから胸にしまって実行をすることにする。

  
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