WEDGE REPORT

2015年7月17日

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村中璃子 (むらなか・りこ)

医師・ジャーナリスト

医師・ジャーナリスト。東京都出身。一橋大学社会学部・大学院卒、社会学修士。その後、北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機関)の新興・再興感染症対策チーム等を経て、医療・科学ものを中心に執筆中。京都大学大学院医学研究科非常勤講師も務める。

 昨年3月、イギリスのケンブリッジ大学を中心としたグループが、一流医学雑誌に面白い研究報告をしました。英国心臓財団等からサポートを得て、70以上もの脂質摂取に関する論文を解析した結果、「飽和脂肪酸(バターに多い)と心疾患の発症に相関関係は見られなかった」というものです。しかも、「飽和脂肪酸を植物油に置き換えたところで心疾患の発症リスクは下がらず、バターを控えて植物油を摂ろうという今の脂質栄養ガイドラインは根拠に乏しい」と結論づけました。

 長らく「バターは体に悪い」と教えられ、バターたっぷりの美味しい食べ物を禁止されてきたアメリカで、メディアがこれに食いつかないはずがありません。「バターが帰ってきた!」「バターは健康的な食品!?」といった見出しがメディアをにぎわせました。

 もちろん、イギリスのグループも「だからバターを摂り放題」と言ったわけではありません。しかし、米国心臓病学会と米国心臓協会は、2013年の秋、「飽和脂肪酸と心疾患との間には強い相関関係がある」との結論を改めて出したばかり。FDAとWHOを巡る「トランス脂肪酸(マーガリン)論争」もさることながら、専門家の間で起きている「米英飽和脂肪酸(バター)論争」も混迷気味なのです。

 ちなみに、このイギリスの論文でも、数ある良い脂質・悪い脂質について検討した結果、トランス脂肪酸だけは、「心疾患のリスクをあげるもの」としてはっきりしていると結論づけています。また、最近、「体によい脂質」として注目されている魚油・エゴマ油などの「オメガ3系飽和脂肪酸」については、摂れば摂るほどよいというはっきりした証拠は得られていないとしています。

「それでも気にしたい人」はどうしたらいいのか

 農林水産省のウェブサイトにもあるように、日本の専門家の間では「日本におけるトランス脂肪酸の摂取量は少ないから気にしなくていい」という議論が以前から主流です。先日、FMラジオのJ-Waveにゲスト出演し、トランス脂肪酸についてお話したのですが、担当ディレクターの方は、5年前に同じテーマを取り上げた際もゲストの専門家は同じ結論だったと言っていました。最近では、「日本でも加工食品への使用量は減っているから規制は要らない」「肉や乳製品など自然の食べ物の中にも少量含まれるから気にしても仕方ない」などの意見がありますが、FDAが「安全値は無い」とし、世界中の専門家が「体に悪い」とお墨付きをつける中、やっぱり、私は可能な限りトランス脂肪酸を摂りたくはありません。

 私のように「まったく摂らないとは言わないが、少しでも健康に気をつけたい」と思う多くの消費者にとって、専門家の意見はもっともであるものの、少々、パターナリスティックにも聞こえます。日本では日本動脈硬化学会が、「コレステロール」「飽和脂肪酸」とともに「トランス脂肪酸」の栄養成分表示を義務化するよう声明を出していますが、私も、消費者が安心し、納得して商品を選べるよう、少なくともこれだけは早期に実現することを望んでいます。

 では、現状では、どんな食品をどうやって食べることで、脂肪分を取ってくのがベストなのでしょうか。「ココナッツオイルは肌にいい」「エゴマ油は認知症を予防する」など、私たちも新しい謳い文句を日々耳にしますが、今まで一般的でなかった油についての信頼性の高い大規模データがあるとは思えませんし、いくら「体にいい」と言われても、魚油で作ったパンやお菓子はあまり食べる気がしません。

 私だったら、どうするのか。たとえば、油を使ったパンを食べるのであれば、マーガリンではなくオリーブ油を使ったものを選ぶようにします。揚げ物はショートニングを使っているようなファストフード店では食べず、自宅で植物性の油で揚げ、日頃から肉よりも魚を食べるようにします。「オリーブ油も植物油も体に良くはない」という議論はありますが、摂るのであればできるだけ「黒」が確定しているトランス脂肪酸以外の脂質を摂っていくというスタンスです。バターは賛否両論の飽和脂肪酸を多く含むだけでなく、件のトランス脂肪酸も含まれていますので、やはりたくさんは摂りたくありません。ただし、ビタミンなどの栄養価が高く、風味も良いので、摂取量に気をつけながら時々は食べるでしょう。

 また、次々に登場する「体にいい」といわれる油ですが、こちらは薬ではないので、私は積極的には摂りません。やりがちなのは、普段油を使わなかったような食べ物にまで何でもかんでもココナッツ油を塗りつけることや、ドレッシングに使っていたオリーブ油をエゴマ油に変えて頻繁にサラダを食べるようになることで、かえって脂質の総摂取量が増えること。もちろん私も流行りの油は試してみたいですが、値段も張るし、「熱に弱い、光に弱い」と、他の油と置き換えるには使い道が限られ、総摂取脂肪量を変えないまま、効果が感じられるほどに摂取するのは大変そう…。

 大事なのは、ひとつの食品の中にいい脂質も悪い脂質も同時に含まれる場合が多いことを理解し、トータルで見てより健康的な油を、必要に応じて選んでいくことです。また、体にいい油も悪い油もカロリーは同じであるのを念頭におくことも重要です。トランス脂肪酸たっぷりのマーガリンも、オメガ3に富んだエゴマ油も、小さじ1杯で27キロカロリーあることはお忘れなく。

i Chowdhury R., et al, Association of Dietary, Circulating, and Supplement Fatty Acid With Coronary Risk, Annals of Internal Medicine, vol.60, no.6, pp.398-408.

  
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