オトナの教養 週末の一冊

2015年7月29日

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中村宏之 (なかむら・ひろゆき)

ジャーナリスト

1967年生まれ。91年、慶應義塾大学経済学部卒、読売新聞東京本社入社。ロンドン特派員、米ハーバード大学国際問題研究所研究員、経済部デスク、調査研究本部主任研究員などを経て2017年4月より読売新聞東京本社メディア局編集部次長。『御社の寿命』、『世界を切り拓くビジネス・ローヤー』、(いずれも中央公論新社)など

 その背景には、経済記者の駆け出しの時に証券担当として山一證券の破綻に遭遇し、「会社がつぶれる時というのは本当に一瞬なんだ」と痛感した「原体験」があります。企業経営者が世の中の大きな動きを見通す力や、今後どんな製品やサービスに世の中のニーズがあるのかを鋭敏に感じ取る力がないと、企業はすぐにだめになると思います。こうした問題意識が藤森さんと一致して、一緒に本を書こうという思いに至りました。

東芝の不正会計問題 
プロの目利きは何を見逃したのか? 

三木 全くの偶然ですが、出版直後のタイミングで、東芝の不正会計問題が大きく取りざたされています。東芝には社外取締役、監査法人、メーンバンクといったそれこそ「目利き」のプロがいたのに、結果として見逃してしまいました。

みき・てつお 1958年生まれ。東京学芸大学卒業。中央公論新社特別編集部長。繊研新聞記者を経てフリーライターに。2000年に中央公論新社入社。06年から「婦人公論」編集長を務め、現職。

藤森 東芝問題との関連でいえば、この本に書いたことが、ほとんど当てはまっていると思います。結局、経営者次第で、企業はあのようなワナに落ちてしまうのです。3代の社長に対して、みんな「イエス」としか言えなかった社内の「空気感」。これは本書で書いた、「危ない会社の危ない社長」「危ない会社の危ない経理部長」のストーリーに通じる部分です。中小企業で社長から「君に任せたよ」と言われた経理部長が、赤字決算を言い出せずに暴走するのと同じ構図です。まさに、今回の東芝の3代の社長時代に、同じような負の連鎖反応を起こしているわけです。

 どんな巨大企業であっても、一人でもそうした経営者が出てしまうと、あのようになってしまう。「企業は人だ」とよく言いますが、まさにそれを体現しているのが東芝問題であり、この本に多く出てくるような町の中小企業の問題となんら構図は変わりません。 

中村 私も藤森さんと同じ意見です。本書で紹介した事例は中小企業の話が多いのですが、それが大企業の東芝にも見事にあてはまってしまうことばかりなのは、私も驚きです。結局、中小企業であっても大企業であっても、コーポレートガバナンス(企業統治)の本質は同じということです。東芝だっておそらく、これが自分たちの話でなかったら、「どこかの軽率な経営者が愚かな行為を行った」と認識していたはずです。

 それなのに、140年の歴史を持ち、「老舗」ともいうべき企業の社長が3代にわたっておかしなことをしていたわけです。正しくない業績で株価をつくり、投資家からお金を集め、今になって「あれは不適切なやり方で、数字が全く違っていました」というのでは、経営者の資質が問われても抗弁できないでしょう。

東芝が手形サイトの引き伸ばしを求めた理由

三木 結局、東芝の問題は「目利き力」の問題なのでしょうか? それともガバナンスの問題なのでしょうか?

藤森 実は、私たちの間では、東芝は時々変わった動きをする会社だな、と認識していました。なぜなら、グループ子会社が急に支払いのサイト(期間)を伸ばすことを求めて来るなど、東芝ほどの会社ではおよそ考えられない不可解な動きをすることがこれまでもあったからです。

 今後の検証が必要でしょうが、もしかしたらそうしたことを許す雰囲気が、今回の事案に関係していたのかもしれません。「よもや東芝ほどの会社には当てはまらないだろう」という考え方は是正しないといけないと思います。

中村 藤森さんが指摘されたように、「エクセレントカンパニーだから間違わない」という考え方は、おそらくもうどこの企業にも通用しない。日本の社会には大きな会社はきちんとしているはずだという「大企業神話」みたいなものがありますが、どんな企業でも起こりうるということを念頭におきながら、監査法人なり、社外取締役は対応しないといけないと思います。すべて最初から「性善説」に立つことはもうやめた方がよいのでしょう。

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