WEDGE REPORT

2015年7月31日

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某紙社会部記者A (ぼうししゃかいぶきしゃえー)

 実際には「理想」を詰め込みすぎて失敗した。「検討いたします」。JSCの口癖だった。有識者会議が言うことを丸のみし、斬新なデザイン、開閉式遮音装置、コンサート会場、可動式座席、座席空調、吸音装置、免震装置、博物館、レストラン、プレゼンルームなど、挙げてもきりがない程の「理想像」を実現しようとした。

毎年20億円ほどの赤字を垂れ流す
“お化けスタジアム”

 結果、当初の総工費1300億円が2520億円に膨張。「スポーツ赤字」の穴埋めどころか、毎年20億円ほどの赤字を垂れ流す“お化けスタジアム”となり、空中分解した。

 暴走したJSCの責任は重い。一方で、アスリート側は要求に終始する。為末さんは「国立競技場は陸上競技場でもあってほしいので、サブトラックがない案に反対です」とも書いている。サブトラックがないと国際大会はもちろん、インターハイなどの大きな国内大会も開けないからだ。陸上選手として当然の思いだが、整備費回収の方策などに全く触れない競技関係者の姿勢に首をかしげる新国立関係者は少なくない。

 自民党の後藤田正純衆院議員は「五輪を機に、日本は体育ではなくスポーツ産業へと成長させなくてはならない。それが最大のレガシーだ」と訴えている。「稼がなくていい」という考えが根付くアマチュアスポーツ界。ある運動記者は「例えば陸上の日本選手権がある場合、体育協会の人たちは努力してチケットを売ろうとしない。だから、スタンドにいる観客は関係者や選手の家族ばかりになる」と話す。

 選手は競技に集中すべきとの声は当然だが、それを支える協会側やOBが競技の魅力を広報し、「もっと集客の努力をし、利益を生むようにすべきだ」との声は多い。「大きな大会を開けないから」と要求ばかりする体質をあらためなければ、国民の理解を得るのは難しい。

 現に7月29日、遠藤利明五輪相に要望書を提出した日本陸連がそうだった。20年東京五輪までに「常設サブトラック」を整備するよう求めた。原案の仮設整備を上回る提案だ。「毎年、新国立で全国大会をやるわけではないのに、なぜサブトラックが必要なのか」。

 記者から突っ込まれると横川浩会長は「国立は陸上の聖地。そこで陸上をやりたいという人たちに、2020年の後も五輪レガシーとして継承していきたい」と答えた。集客が見込めない陸上機能は五輪後に取り外すべきとの与党議員らの声について問われると「五輪での陸上は日数も多くメーン競技。(五輪後も)新国立で陸上をやるべきだ」との主張。どちらも精神論に終始した。

 陸上をはじめ、スポーツは一般市民に感動を与えてくれる。その対価としてこれまで公費が支払われたが、東京五輪は「自ら稼ぐ」体質に生まれ変わるチャンスだ。自民党部会では「日本で稼げるのは野球、サッカーしかない」との意見が飛ぶが、そんな言われように発奮しないわけにはいかない。アマチュア界に現状を覆すイノベーションが求められている。

  
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