WEDGE REPORT

2015年8月5日

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 軍事大国トルコのエルドアン政権の過激派組織「イスラム国」(IS)への空爆参戦で複雑化するシリア情勢がさらに大混乱の様相となってきた。米国が訓練して送り込んだばかりのシリア人部隊が国際テロ組織アルカイダ分派の攻撃を受け大きな打撃を被ったのだ。オバマ政権にとっては全く想定外の展開で、急きょ戦略の見直しを迫られることになった。

トルコ南部の空軍基地。ここからIS、PKKへの空爆が行われる(Photo by Kaan Bozdogan/Anadolu Agency/Getty Images)

米国が手塩にかけて育てた部隊の指揮官らも誘拐

 混乱の舞台となっているのは、シリア最大の都市アレッポ北方の長さ約100㌔、幅60㌔のトルコ国境沿いの一帯だ。現在はISの支配下にある地域だが、トルコと米国はこの一帯をトルコの「安全保障地帯」とし、将来的にはここからISを一掃。米国が訓練して育成したシリア人の新生部隊を配備し、現在トルコに滞在中のシリア人難民200万人をこの一帯に戻す計画だ。

 米国の発表によると、米国は昨年8月からこれまでの1年間で、イラクとシリアのISの拠点などに5000回の空爆を加え、戦闘員ら1万人以上を殺害した。しかし同時に、空爆だけではISを壊滅することができないことも一層鮮明になってきている。IS壊滅には、どうしても強力な地上部隊が必要なのだ。

 しかし政府軍が存在するイラクとは異なり、内戦中のシリアでは、アサド政権軍、米欧が支援する反政府穏健派、IS、アルカイダ分派「ヌスラ戦線」、クルド人勢力が5つ巴の戦闘を展開している。米国はこうした中、ISと戦わせるため5000人規模の反政府シリア人地上部隊を創設することを目指し、シリア人を徴募してヨルダンとサウジアラビアで訓練を続けてきた。

 米国は7月中旬、徴募・訓練に1年もかけたこの新生部隊「第30軍団」の第1陣54人を安全保障地帯の西端にある町アザズ付近に送り込んだ。時間が掛かったのは、徴募の際、対象者がISの過激な思想に染まっていないか、過去にISとのつながりがないかなど、綿密な身元調査を行っているからだ。新生部隊にISの工作員やスパイが潜り込んでいては話にならないからだ。

 ところが先月末、「第30軍団」が「ヌスラ戦線」に突然2日間に渡って攻撃され、多数の死傷者が出た上、徴募や訓練に責任を持っていた指揮官と副官、それに戦闘員6人が誘拐されてしまったのだ。米国は猛爆撃を加えて、「ヌスラ戦線」の攻撃を食い止めたが、同戦線からの攻撃は全くの想定外。訓練を終了させた第1陣を送り込んだのにも関わらず出鼻をくじかれ、「政権にとって深刻な打撃」(米当局者)となった。
 

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