2024年4月19日(金)

裏ななつぼし旅

2015年9月14日

 内宮と外宮で有名な伊勢神宮だが、本来は他にも数多くの別宮、摂社、末社などを含む、神社の集合体である。このうち内宮は天照大神を祀り、三種の神器の鏡を御神体とする。一方、外宮の祭神である豊受大神は、もともと食物神で、現在でも朝夕に食事(水、飯、塩)を天照大神に差し上げるのが、大切な神事とされている。明治政府によって世襲が禁止されるまで、内宮の神主は荒木田氏が、外宮の神主は度会氏が代々務めてきた。内宮と外宮では、皇祖神を祀る内宮のほうが格式は上と考えられがちだ。

五十鈴川(いすずがわ)©Nonori Kohira

 こうした序列に対抗するかのように、中世以降、渡会氏が内宮にたいする外宮の優位性を強調して、豊受大神を中心とする度会神道(伊勢神道)を打ち立てる。そのあたりの歴史も面白いのだが、現代の弥次・喜多を自任するぼくたちは、「善男・歴シニア」という軽いスタンスでいってみたい。

参道は真ん中を歩かないのがエチケット
真中は神様が通られる道

 ところで、かつて内宮と外宮の門前町には、参詣者の宿泊や案内を生業とする「御師」と呼ばれる人たちの館が軒を連ねていたという。参詣者は御師の館に泊まり、彼らの案内で神宮に参拝した。先にも述べたように、伊勢神宮は多数の神社の集合体である。

 どこを、どんな順番でお参りすればいいのか、素人にはなかなかわかりづらい。旅に不慣れな人たちにとって、御師のような存在はありがたく、ずいぶん心強かったことだろう。今回、ぼくたちも長老のお知恵なども拝借して、できるだけ正しい仕方で参拝してみようと思う。

 まず鳥居の意味を正しく理解しましょう。これは一種の結界、ここから先は神様の場所であることを示すものです。ときどき鳥居の外側を通り抜ける人を見かけますが、やめましょう。ちゃんと潜らないといけません。神域に足を踏み入れるのだから、入るときと出るときには軽く頭を下げましょう。それと参道は真ん中を歩かないのがエチケット。真中は神様が通られる道です。手水で手を洗い、口を漱ぐことも忘れずに。冷たいからといって、省略してはいけません。これは一種の禊と考えましょう。手を洗うのは身体を浄めるため、口を漱ぐのは魂を浄めるため。心と身体を浄めた者に、神様は降りてきてくださるのです。

 では行きますよ。最初は外宮から。これが正しい参詣の仕方。ところで、お伊勢さんの内宮と外宮はけっこう離れた場所にある。どちらも人は多いし、駐車場も混雑している。それで多くの参詣者は内宮だけお参りして帰ってしまう。とくにバスでやって来る旅行会社のツアーなどは、熊野三山や高野山や白浜温泉にも行かなければならないので、慌ただしく内宮を拝み、おはらい町通りで伊勢うどんの昼食、あとは午後二時まで自由行動です、赤福でも買って、おかげ横丁などを適当に散策して下さい……などということになりがちだが、間違っている! 何が赤福か。そんな不心得者には、赤も黒もなければ、福も来ないぞ!

 と、なぜか本日の善男シニアは怒りっぽい。やはり伊勢という特別な場所が、厳格な気分にさせるのだろうか。それはともかく、外宮に祀られている豊受大神は、「大神」と呼ばれるほどの神格をもった特別な神様である。しかも大切な食べ物の神様とくれば、善男善女は努めてお参りしたい。一般の観光客には敬遠されがちな外宮は、内宮にくらべると人も少ない。境内の木々の雰囲気などは、むしろ内宮よりも神秘的で神聖な感じがする。時間のある方には、ぜひ外宮の参詣もお勧めしたい。

  
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