イノベーションの風を読む

2015年8月26日

»著者プロフィール
閉じる

川手恭輔 (かわて・きょうすけ)

コンセプトデザイン・サイエンティスト

1990年代から、大手メーカーでインターネットサービスの企画・開発・運用を手がけ、自ら立案したグローバルなサービスを複数立ち上げた経験を持つ。その1つは、サービスのデザインでグッドデザイン賞を受賞した。コンピューターサイエンス関連の翻訳本も多数ある。

 しかし、「やわらか成長戦略。」では「2020年に外国人旅行者数を2000万人に増やす」という目標は掲げられているが、それを達成するための戦略や施策は、上述したWelcome to Japan! 以外には説明されていない。その中の「世界経済とのさらなる統合」には Welcome to Japan! とともに Cool Japan という項目があるが、そのページには「世界に日本文化の魅力を伝えることで、日本のプレゼンス向上、海外マーケットの拡大、訪日外国人旅行者の増加が期待されます。」という説明と、経済産業省商務情報政策局が作成した「クールジャパン/クリエイティブ産業」というページへのリンクが置かれているだけだ。

 経済産業省が推進するクールジャパン政策は、「内需減少等の厳しい経済環境」において「日本の文化やライフスタイルの魅力を付加価値に変え」て「新興国等の旺盛な海外需要を獲得し、日本の経済成長(企業の 活躍・雇用創出)につなげる」というものだ。そのコンテンツは「日本の文化やライフスタイル」とされているが、ファッションやアニメなどの現代文化と、ラーメンや寿司そして日本酒などの輸出しやすい食文化が中心となっている。 そして、そのシナリオは、1. 日本の魅力の効果的発信によって日本ブームを創出し、2. 現地で稼ぐためのプラットフォームを構築して海外で稼ぎ、3. それによって観光客を日本に呼び込み大きく消費を促すというものだ。

 6月5日に開催された観光立国推進閣僚会議で「観光立国実現に向けたアクション・プログラム2015」が決定された。「2020年に外国人旅行者数を2000万人に増やす」という目標達成のための政府の戦略と施策はこちらに集約されているようだ。それには「日本の歴史・文化に高い関心を有しつつもまだ十分に取り込めていない欧米からの訪日需要を確実に取り込むべく、欧米向けのプロモーション戦略を今一度練り直し、欧米からの旅行者に訴求する日本の歴史や伝統文化をテーマとしたプロモーションを実施し、体験型訪問ツアー商品の充実を図る」。とある。観光立国推進拡張会議は内閣総理大臣が主催し2011年から開催されているが、欧米からの旅行者の呼び込みついて触れたのは今回が初めてだ。

観光立国のコンテンツは何か?

 クールジャパンのコンテンツは、日本に興味を持つきっかけにはなるが、多くの外国人観光客を日本に呼び込むためのコンテンツには成り得ないだろう。アニメやファッションを購入し、ラーメンや寿司などを食べることができる地域も増えた。クールジャパンの戦略も、現地で稼ぐことを優先して輸出しやすいコンテンツが選ばれている。

 海外で日本ブームを創出することも必要だが、高い旅費を払ってわざわざ日本に来てもらうためには、日本でしかできない体験を提供しなければならない。まして、「観光立国実現に向けたアクション・プログラム2015」の冒頭に書かれているように「力強い日本経済を立て直すための成長戦略の柱として、世界に誇る魅力あふれる観光立国の実現に向けて強力に施策を推進する」のであれば、目先の珍しさに頼ったブームではなく、2020年の後にも継続する日本の魅力の創造に取り組む必要がある。

 「訪日外国人消費者動向調査」のアンケート結果を元に、欧米からの観光客が最も期待していたことをグラフにしてみた。外国人観光客全体での順位で上から並べてある。これを見ると「日本の歴史・伝統文化体験」への期待が、欧米からの観光客に特徴的であることがわかる。

【欧米からの観光客が最も期待していたこと(人)】観光庁の「2014 訪日外国人消費者動向調査」より筆者作成
拡大画像表示

 「日本の歴史・伝統文化体験」の中心となるコンテンツは文化財だ。現在、日本の文化遺産として次の15件がユネスコに登録されている。

 法隆寺地域の仏教建造物、姫路城、古都京都の文化財(京都市、宇治市、大津市)、白川郷・五箇山の合掌造り集落、原爆ドーム、厳島神社、古都奈良の文化財、日光の社寺、琉球王国のグスク及び関連遺産群、紀伊山地の霊場と参詣道、石見銀山遺跡とその文化的景観、平泉仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群-富士山-信仰の対象と芸術の源泉、富岡製糸場と絹産業遺産群、明治日本の産業革命遺産 製鉄・鉄鋼、造船、石炭産業

 もちろんユネスコの世界遺産条約(世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約)は、それらの遺産を観光資源として認定するものではない。危機に瀕している文化や自然を登録することによって、未来に遺すべきものであることを世界に示し、各国がその条約に基づいて保護・保存をすることを促すことが本来の目的だ。

関連記事

新着記事

»もっと見る