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2015年9月3日

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中西 享 (なかにし・とおる)

経済ジャーナリスト

1948年岡山県生まれ。72年共同通信社に入社。88年から91年までニューヨーク特派員、経済分野を取材し、編集委員を経て2010年に退社。現在は経済ジャーナリスト。著書は「ジャパンマネーの奔流―ニューヨーク・東京・ロンドンの24時間」(1987年、ダイヤモンド社)、「日本買い 外資は何を狙っているか」(2005年、PHP研究所)など。

 しかし、ロケットビジネスの将来を展望すると、新たな大型ロケットを開発しなければ、勝ち残れない時期に来ている。世界の商業衛星打ち上げ需要のうち、静止トランスファー軌道打ち上げ能力4トン以上の需要は60%あるが、「HⅡA」ロケットではその需要を十分カバーできない。

 そのような状況を踏まえ、政府は将来的な宇宙ビジネスへの生き残りをかけて、20年に試験機1号を打ち上げるスケージュールを基に次世代新型ロケット「H3」の開発をスタートさせた。

新型基幹ロケット機体の検討図(JAXA提供)

 1986年に開発が始まった「HⅡ」ロケットの開発に携わった技術者の多くがシニアになりつつあるため、新世代の技術者にロケット技術を継承する意味でも、このタイミングで新型ロケットの開発に着手しなければならない事情もあった。

 三菱重工業を主体とした機体メーカー各社はJAXAの意向を受けて、15年度からその「H3」の基本設計に着手、オールジャパンで最新のロケット技術を開発し、日本の航空宇宙技術のレベルアップにも役立てたいとしている。「H3」ロケットの概要は、全長63㍍の大型ロケットで、「H-2B」よりさらに大きいサイズになる。メインロケットの外付けする固体ロケットは機種により4本まで付けることができる。6.5㌧以上の静止衛星を軌道に乗せることができるなど、多様な衛星需要に応えられるスペックになっている。

 世界の静止衛星などの打ち上げ需要を見ると、年間20機程度が見込まれる。今後はスカパー放送など衛星を使った通信需要が伸びるアジア諸国の打ち上げが増えるとみられ、日本としてはこれらのアジア諸国の需要を積極的に獲りたいところだ。また、地球温暖化に伴う自然災害の増加で、台風や干ばつなどをリアルタイムで地域ごとに細かく観測できる衛星の需要も高まっている。だが、世界的のロケット市場を見まわすと、強豪ぞろいで日本が安定的に獲得できる保証はどこにもない。

 JAXAではロケットの生産基盤を維持し、信頼性を確保するため年間で6機以上の大型ロケットを安定的に打ち上げることを目指している。このため、そのうち3機程度は日本の観測衛星など官需で賄い、残りは海外を含む商業市場から受注したいとしている。官需である程度の採算を確保したうえで、海外受注を伸ばしたいという作戦だ。

価格を半額に

 JAXAは「H3」の開発に当たり「顧客の声を実現することを第一に考えたロケットで、信頼性と価格の両面で世界のトップクラスであるとともに、柔軟性などサービス面にも注力、日本のロケット技術を集大成しつつ、得意分野の技術を融合したい」としている。このほか国際的な競争力をつけるための重要なポイントは、打ち上げ費用の削減と、打ち上げまでの期間の短縮による打ち上げ機会の拡大だ。

 JAXAでは1機当たりの打ち上げコストを、「H2A」から半分の約50億円に抑制、組み立て作業をスピードアップして打ち上げ間隔を最短で26日程度(これまでは53日)に短縮する。

 日本はこれまでに09年に外国から初めてとなる韓国政府の衛星を受注、打ち上げに成功した。その後13年にカナダのテレサット社の商業衛星、15年にはドバイからも受注するなど、打ち上げ成功率の向上と相まって海外からの受注を少しずつ獲得できる力が備わりつつある。三菱重工の営業担当者が需要のありそうな各国を回るなど、獲得に向けた営業活動も強化している。

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