2024年4月26日(金)

WEDGE REPORT

2015年9月7日

 ところが、大量の難民に対処仕切れなくなったハンガリーはセルビアとの南部国境に有刺鉄線のフェンスを張り巡らして流入を制限、またマケドニアもギリシャとの国境を一時的に閉鎖、オーストリアもハンガリーとの国境で入国審査と検問に踏み切り、自由な移動と通行というEUの中核的な理念が崩壊の危機に直面した。

これは欧州の問題ではなく、ドイツの問題だ

 難民受け入れに消極的なハンガリーのオルバン首相は「欧州はあなたたちの故郷ではない」と難民をけん制する一方、「これは欧州の問題ではなく、ドイツの問題だ」と、受け入れに積極的なドイツに批判の矛先を向けた。ハンガリーはドイツ行きの列車に乗るためブダペスト東駅に殺到した難民を駅構内から排除するなど厳しい対応を見せていたが、国際的な批判の高まりや、“厄介者払い”などの理由から5日、数千人の難民をバスでオーストリア国境まで運んだ。

 しかし、難民の受け入れについては対立が残ったままだ。主要な対立点はEU各国で人口や経済力に基づき、難民の受け入れを国ごとに分担する「割当制」である。EU欧州委員会が5月に提案したが、受け入れに慎重な東欧やバルト諸国がこうした義務化に反対して先送りされていた。

 だが、難民危機がさらにエスカレートしたことでEUは14日に緊急内相会議を開催して対応を協議することになった。「割当制」が最大の議題で、その対象枠は16万人。ドイツ、フランス、イタリアなどが割当制に積極的なのに対し、ハンガリー、ポーランドなどの東欧、バルト諸国が反対しており、冷戦時代のような「東西対立」が再現した状況だ。しかし今後さらに大量の難民が押し寄せるのは確実で、16万人枠では追いつかないのは明らかだ。

 こうした中で注目されるのは英国の立場だ。英国のキャメロン政権はシリア難民の受け入れには慎重で、今月初めの段階でわずか216人しか受け入れていない。米ワシントン・ポスト紙はこの対応について「地下鉄の車両の収容人数よりも少ない」と揶揄した。キャメロン首相は、シリア難民の幼児がギリシャに向かう途中に溺死した悲惨な状況を受け、数千人の受け入れに方針を変更したが、今後の英国の決断に国際的な目が注がれている。

  
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