2024年4月20日(土)

Wedge REPORT

2009年9月29日

疑わしい経済効果

 以上のような高速料金についての基本的な考察なしに、民主党も自民党も無料化や割引きの効果が大きいことを主張しているが、その主張は甚だ疑わしい。民主党のマニフェストには明確に、高速道路無料化が「物流コスト・物価を引き下げ、地域と経済を活性化」すると書かれており、自民党の主張も同様であると思われる。ここではすべての疑問を書く余裕はないが、いくつか例をあげる。

 まず、無料化や低料金化がはたして物流コスト・物価を引き下げるかということである。確かに高速料金だけを考えれば、それはコスト・物価引き下げ要因である。しかし無料あるいは低料金になるほど、急ぐ価値も必要もない人や物を運ぶ車も高速道路に入ってきて混雑と渋滞を引き起こす。そして急ぐ価値や必要が大きい人や物の移動にとって望ましい高速通行の便が損なわれてしまう。これは高速道路の容量が限られているからであり、その限られた容量は移動時間短縮のニーズの大きいものに優先的に利用させることが望ましい。そのために徴収されるものが高速道路料金であり、それによって短縮時間の価値が料金よりも高いと思う人だけが高速道路を利用するようにすることができるのである。

 例えば高速を利用する観光バスは、全体として限られた時間の中から目的の観光地で使う時間をできるだけ多くとろうとするから、目的地までの高速通行の価値は非常に大きい。したがって高い料金を払っても高速道路を使おうとする。高速無料化・低料金化によって引き起こされる渋滞によって観光客と観光バス会社が受けるマイナスの影響は高速料金の低下によるプラスの影響よりはるかに大きいであろう。急ぎの荷物を扱うトラック運送業者の受けるマイナスの影響も同様である。

 次に混雑・渋滞によるガソリン消費およびCO2の増加といったエネルギー資源問題や環境問題のマイナスの影響がある。例えば有料であれば高速料金をシェアするために乗用車に定員いっぱいに乗り、あるいはマイクロバスや大型バスを使っていた人たちが何台もの乗用車に分乗するようになって、輸送効率が下がり、混雑も加わってガソリン消費量の増大をもたらす。人流だけでなく物流についても同様の効率低下があり、例えば渋滞によるトラック運転手の労働強化などもあってコストが上昇する。物流コストや物価が下がり、生活コストが低下するという民主党の見方は甘いと言わざるを得ない。

 また高速料金だけを税金で優遇することは、鉄道などからエネルギー効率がより悪い道路への人流・物流の過大な移動を引き起こし、資源・環境問題をさらに悪化させる。さらに、高速料金が無料化されただけでインター周辺地への工場、オフィス、商業施設、住宅などの立地が促進され、地域分散化と活性化が進むと考えるのも疑問である。集積規模の大きさによる引力の働きにより、大都市集中化への動きがより強く働くという面を無視できない。さらに、高速料金が下がるだけで消費が拡大し大きな経済効果があるというのも皮相な見方である。

歪んだ民営化を正せ

 そもそも今回高速料金が選挙戦の一つの焦点になったのは、小泉改革の一つの目玉だった道路公団民営化の歪みに由来する。4年前に生まれた道路会社は、まだ全株式が政府所有とはいえ、「民間のノウハウ発揮により、多様で弾力的な料金設定」を行うことを一つの目的とし、経営判断の自主性を尊重されるべき民営会社である。その会社が提供する主力サービスである高速道路の料金設定を、どうして政府が景気対策や地方活性化策として勝手に行えるのか。また、なぜ政治家がその料金値下げを選挙公約に掲げることができ、かつそれが実現してしまうのか。しかも、効果の十分な検証もない政治家の思いつき的な料金設定による会社の減収を国民の税金で補う。


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