2024年4月25日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年9月22日

 南シナ海を通ずる海洋貿易は世界の30%を占める。周辺海域は漁業や石油、ガス資源が豊富である。この地域の紛争は中国を含め世界の貿易に壊滅的な影響を与える。報告書は中国に対する警告であるが、問題は、このような警告が中国の指導者に「砂の長城」について考えを改めさせるに充分かということである、と述べています。

出 典:Washington Post ‘China should tread carefully in the South China Sea’ (August 25, 2015)
https://www.washingtonpost.com/opinions/china-should-tread-carefully-in-the-south-china-sea/2015/08/25/f0c2b5b6-4a95-11e5-846d-02792f854297_story.html

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 この国防総省の対議会報告書は、中国の埋め立ての進行に注意を喚起することはしていますが、南シナ海問題に対処するための新たな政策は何も記してはいません。それでも上記社説では、報告書は中国に対する警告だといいます。社説は、このような警告が「砂の長城」を築きつつある中国に対して充分かと問いていますが、答えは明瞭で、全く充分ではありません。

 暫く前、中国は、埋め立ては間もなく終了すると言明したと報じられましたが、中国が宥和的態度に転換したわけではなく、やりたかったことをやったので作業は終了するということです。中国の勝手気儘な行動を抑止する方策は見つかっていません。微温的対応に終始しています。全般的な米軍の軍事力増強は歓迎すべきことですが、それだけでは南シナ海の問題に対処出来ません。

 カーター国防長官に代わって政策が明確になるかと期待しましたが、そういうわけでもなさそうです。5月ごろでしたか、国防総省筋は、人工島を造成したところで領土になるわけではないことを示すために、人工島の12カイリ内を艦船に通過せしめることを示唆しましたが、実行された形跡はありません。豪州も同様の措置を講ずると報じられましたが、雲散霧消したようです。

 来るべき習近平総書記の訪米の際に、オバマ大統領が確たる譲歩を引き出せなければ、事態は深刻化することを覚悟する必要があるでしょう。軍事施設を伴った「砂の長城」は、西太平洋から米軍を追い出すための最初の一歩となり得ます。クリントン政権時代に、台湾海峡の緊迫化に対応するため2個の空母機動部隊を台湾海峡に派遣しましたが、そういうことが一触即発のリスクを覚悟しないと出来なくなりつつあります。

  
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