ヒットメーカーの舞台裏

2009年9月30日

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池原照雄 (いけはら・てるお)

ジャーナリスト

1950年生まれ。専門紙や全国紙の経済記者として自動車、エネルギー、金融、官庁などを担当。00年からフリーになり幅広い執筆、講演活動を展開。著書に「トヨタVSホンダ」(日刊工業新聞社)、「図解雑学 自動車業界のしくみ」(ナツメ社)など。

 研究部門は筑波大学との共同実験を進めた。日本には数室しかない「ヒューマンカロリーメーター」という消費カロリー専門の計測室がその拠点だ。この部屋は密室状態であり、室内に居る人の酸素の消費量を計測して、正確な消費カロリーを割り出していく。半年に及んだ実験では、各世代の男女約30人に丸1日、この部屋で過ごしてもらった。被験者には3Dセンサーを装着、酸素消費量とともに、センサーから得られる身体活動のデータも収集した。そのデータから、独自開発した計算式(解析アルゴリズム)を元に消費カロリーを算出するためだ。すると、その算出値は酸素消費量による正確な消費カロリー値との高い相関関係が確認できた。

 実験結果を待ち望んでいた加藤には商品化のゴーサイン。「これで自信をもって出せる」と、喜んだ。しかし、問題はそこからだった。友人など周囲の人に聞くと、ほぼ全員が「欲しい」と言う。だが、「欲しい」と、「買う」という行動は別だと、加藤は冷静だった。カロリズムは実勢8000円程度と、歩数計のほぼ2倍の値段。ひと目で歩数計との違いが分からないと「値段の高い歩数計と誤解されて埋もれてしまう」(加藤)と考えた。そこで導入したのが、前述の「棒グラフ表示」機能だった。刻々と変わる消費カロリーを視覚化すれば、歩数計との違いを明快に示すことができる。もっとも、グラフ表示のためのプログラム開発は予想以上にてこずった。

 消費カロリーへの反応度を強めると、少しの身体の動きでもグラフが長く伸びる。逆に反応度を弱めると、運動量が変化しているのにグラフの長さは一定といった表示になってしまう。結局、さまざまな反応度にセットしたプログラムを日常生活のなかで検証するしかなかった。加藤は自らが実験台となった。異なるプログラムの試作品を6個身に付け、2カ月にわたって修正を重ね、最適な反応度にセッティングした。

  加藤は学生時代には、網の付いたスティックを使う球技の「ラクロス」で活躍したスポーツマンであり、「身体」や「健康」への強い関心からタニタに入社した。今では他人の体脂肪率をおおよそ当てる特技をもつようになった。自社製品のデモ測定を重ねた営業時代に培ったもので、体型などをもとに言い当てる。仕事を通じて肥満予防など健康サポートに真摯に取り組んできた証といえよう。「これで生活を変えてもらいたい」という思いを託したカロリズムは、ビジネス面の成功だけでなく、人々の健康を応援したいという加藤の「志」をも満たす製品となった。(敬称略)


■メイキング オブ ヒットメーカー 加藤 純(かとう・じゅん)さん
タニタ ヘルスケア事業部 商品企画課

他人の体脂肪率を言い当てるという驚くべき特技をもつ加藤さん(撮影:井上智幸)

1976年生まれ
園芸農家の長男として、花に囲まれて育つ。鉄棒で自慢げに大車輪を見せ付ける父親の影響を受け、体操部に入部。部活対抗リレーでは、バク転だけでトラックを一周した。
2000年(23歳)
タニタに入社。大手量販店の営業を担当。3カ月ごとに体脂肪計の色を次々に変えていくという企画を決め、工場から大ヒンシュクを買う。年末にタニタ福袋企画を決めたが、人手が足りず、問屋さんの倉庫で明け方まで梱包を手伝ったのは、今はいい思い出。
2001年(24歳)
2部に落ちた母校の部活を立て直すため、ヘッドコーチに就任。仕事以外の時間はコーチ業に費やす。公式戦無敗のまま、1年で1部に昇格させる。3年後、自らの采配ミスで2部に落とし逃げるように辞任。4年間のコーチ生活で、人のモチベーション維持や組織運営について深く考えるようになる。
2007年(31歳)
ヘルスケア事業部商品企画課へ異動。いとうせいこう氏とのコラボで歩数計にラインストーンをちりばめた『ホスーK』を発売。また、腕立て伏せの深さと回数をカウントする『プッシュアップトレーナー』を発売するなど、マニアックな商品企画に偏る。その後、活動量計の商品企画に携わる。

◆「WEDGE」2009年10月号

 

 
 

 

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