2024年4月26日(金)

古希バックパッカー海外放浪記

2015年11月1日

 一枚はジェームス・ディーンがゆったりしたツータックのコットンパンツのポケットに両手を入れて、よれた薄手のタートルネックのセーターにフラノのジャケットを羽織り、くわえタバコで1960年頃のニューヨークのブロードウェイと思われる街を闊歩。彼の反骨精神が見事に伝わってきます。

 もう一枚は名画“カサブランカ”の有名な“君の瞳に乾杯”のシーン。ハンフリー・ボガードとイングリッド・バーグマンがラブチェアに隣り合って座り、まさにシャンパングラスに唇が触れようとする瞬間です。バーグマンが眩しそうに上目遣いでボガードを見つめています。バーグマンは当時25歳。バーグマンの髪形やシンプルなブラウスが上品ですね♥こういう極上の瞬間が人生には必要ですね。』

 このメールを送信してもまだ時間は午後3時。ビールのお代わりをオーダーするとカイゼル髭のオヤジがうやうやしくグラスにドラフトビールを注ぐ。バーグマンの写真をみているうちに一年前の北京のライブハウスに記憶はフラッシュバック。

北京のライブハウス

 その夜、私は北京市の朝陽公園近くのライブハウスに友人夫妻と遊びに行った。当日はピアノ、ベース、ドラムのトリオによるジャズ演奏で客席は80%くらい埋まっており盛況。

 ファーストステージが終わって周囲を見廻すと少し離れたテーブルに一人で何か飲んでいる金髪の女性が目に入った。セカンドステージが始まってからも気になって彼女のほうを見るとまだ一人で静かにジャズを聴いている。

 曲の合間に彼女のテーブルに行って挨拶するとモスクワの大学で中国政治を研究しているとのこと。三か月北京で調査していたが翌日モスクワに戻るので北京最後の夜を楽しんでいると。イングリッド・バーグマンを彷彿させる美貌であり、話している雰囲気もそのままである。彼女は英語も堪能であるが驚いたことに中国語も相当なレベルである。セカンドステージが終わると友人夫妻が帰るというので私も後ろ髪を引かれる思いで辞した。

 気の遠くなるような長時間の暇つぶしでも、切迫した肉体的苦痛がなければ想像力をフルに発揮して別の世界に遊ぶことも可能である。

 ところで“小人閑居して不善を為す”とは蓋し名言である。長い自由時間を与えられたときに人としての貴賤が露見する。ビールを飲んで酩酊して美女と邂逅したことを追憶しているようではお里が知れる。それにくらべサンチアゴ巡礼の旅で知り合った韓国法務省の高官(55歳)は知れば知るほど実篤で尊敬すべき人物であった。

 役人として公務に忙殺される日々を振り返り“もしあり余る自由な時間があれば平素考えが及ばない長期的な政策課題、未来社会への提言などを熟考したい”と高邁な想いを吐露していた。

⇒第12回に続く

  
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