2024年4月20日(土)

古希バックパッカー海外放浪記

2015年11月15日

 私は韓国社会も変わってきたと感じた。このように堂々と外国人と対等に接して国際社会を生きてゆくエリート女性が出現し活躍できる成熟した社会になったのだと隔世の感であった。1980年代後半に何度も韓国に出張したが女性は部屋の隅の小さな机に座らされており、お茶くみが当然という雰囲気であった。さらに15年ほど前にパキスタンの古代遺跡“モヘンジョダロ”で出会った韓国女性を思い出した。

 彼女は当時24歳で短大を卒業してから保育士として働いてお金を貯めて、一人で韓国から陸路中国経由でインドシナ半島、インド大陸を横断してパキスタンまで来たという。モヘンジョダロには夜行列車で早朝到着したが次のイラン国境方面行きの列車は夜中の出発であると。私もカラチに出張で来たついでに、休日の暇つぶしにカラチから早朝発の飛行機でモヘンジョダロに来たが帰りのフライトは夕方6時発であった。遺跡を一時間ほどでひと回りして時間を持て余していた。朝の9時頃に遺跡の近くにあるチャイハネ(インド・中東風の喫茶店)で彼女と遭遇してから夕方5時までノンストップで語り合ってしまうほど彼女との会話は当時46歳のサラリーマンには刺激的であった。

 色白の小柄な女性で長旅にも関わらず清潔な白いシャツとジーパンにサンダルというバックパッカーらしくない装いであった。ユースホステルやYWCAの施設や長距離列車の車中泊等なるべく安全な方法を選んで一人旅していると言っていた。これからイランを経てトルコから欧州を横断してロンドンまで行きたいと熱心に語っていた。

 彼女は客観的な広い視野を持っておりしばしば“目から鱗”であった。例えば彼女はクリスチャンであったが、両親も親戚もクリスチャンではなく自分で判断して洗礼を受けたという。ソウルに行くとやたらと教会が多くて戸惑うが、それについて聞くと「税金逃れのために事務所や自宅を教会風に改装して当局に届けるから教会風の建物が多いのです。」

 北朝鮮との統合は韓国国民の悲願なのであろうと問うと「一部の年寄りは一緒に暮した肉親が北にいるので統一を望んでいますが、国民の大多数は貧しい北と統一したら生活水準が下がるとして警戒しています。公には議論されませんが、むしろ統一の先送りを望んでいるというのが大半の国民の本音なのです。」

 男性社会の韓国で年頃の娘の海外一人旅をよくぞ両親が許したものだと気になっていたことを思い切って尋ねると「結局最後は父親から勘当されて家には戻らない覚悟で旅に出てきました。父親だけでなく学生時代から交際して信頼していた婚約者も『君が一人で海外旅行なんてしたら自分が世間から笑いものになり恥をかく』と言って婚約破棄を宣言したのです。それでも一人旅をして海外を見たいという自分の気持ちを抑えることはできなかったのです。」と静かに胸の内を話してくれた。

 この15年前の女性が韓国社会の閉塞感から脱出して広い世界を見たいと悲壮な覚悟をしたことについて、コンサル会社のエリート女子に感想を聞いてみた。おそらく隔世の感があるに違いない。

 しかし案に相違して「とても微妙な質問です。私の父は勘当こそしませんでしたが強く反対していました。私には現在恋人はいませんが、もし真剣に交際している男性がいれば恐らく絶対に私の一人旅を許さないと思います。」


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