サイバー空間の権力論

2015年10月3日

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塚越健司 (つかごし・けんじ)

拓殖大学非常勤講師

1984年生。専攻は情報社会学、社会哲学。著書に『ハクティビズムとは何か』(ソフトバンク新書)、共編著に『「統治」を創造する』(春秋社)、など。TBSラジオ『荒川強啓デイ・キャッチ!』火曜ニュースクリップ担当としてレギュラー出演中(http://www.tbsradio.jp/dc/)。

 こうした業界の縮小化を見込んで、全米の保険業界は新たな収入源の確保を思案している。保険会社のオールステートは保険契約者の行動を記録する装置を配布し、ユーザーがレストランに近づいたらクーポンを提供するといったサービスを考案している。とはいえ、こうした計画が実際に成功しても、根本的な保険料の減少に対抗するには難しいだろう。

自動車のハッキングという課題

 しかし、自動運転車といった近年のハイテクノロジー化故の、新しい悩みもある。2015年7月、フィアット・クライスラーが自社の車140万台のリコールを発表したことは記憶に新しい(http://jp.reuters.com/article/2015/07/24/fiat-chrysler-recall-idJPKCN0PY27U20150724)。リコールの原因は、対象車がハッキングされる恐れがあり、実際にサイバーセキュリティの専門家が実験した結果、遠隔操作で走行中の自動車のエンジンを切ることなどができたことにある。

 このことは、近未来を描いたSF小説などに登場するような車をハッキングして要人を事故死に見せかけるような犯罪が、少なくとも原理的には可能であることを証明していると言えよう。こうした問題を受けて、フォードやGM、日本でもトヨタといった大手自動車企業が一致団結し、「Information Sharing and Analysis Center」と呼ばれるハッキング対策を目的にした組織を設立することが報じられている(http://www.gizmodo.jp/2015/08/post_18103.html)。

画像:iStock

 GPSをはじめとした様々な外部との接続は、もはや自動車と切り離すことはできず、その意味で自動車も「IoT(Internet of things、モノのインターネット)」商品として捉えられる。そして自動車は生命に関わるものであるだけに、セキュリティにもより慎重な対応が不可欠である(IoTとセキュリティに関しては以前この連載で論じた。http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4214を参照)。

 そうした中で必然的に、ハッキングやウイルスをはじめとした攻撃に対処するインターネットセキュリティ技術を、自動車にも適応させることが求められていく。だとすれば保険業界は、インターネットセキュリティ企業がウイルス対策として予防効果を発揮する一方で、万が一の事故に対する対処機能にビジネスチャンスがあるのではないか。そして、自動運転などの分野で活躍するIT企業、インターネットセキュリティ企業、セキュリティが原因で生じる事故に対する「保険」企業、そして従来の自動車業界、この4つの業界の連携が今度の自動車産業の発展に大きく関与する。

完全なシステムとアップデートが求められるシステム

 上記の4つの業界は、しかし制度面で大きな差異があることも最後に指摘しておきたい。自動車産業は人命に直接関わることからも明らかなように、完全でミスのない商品の提供が鉄則である。だからこそリコールなどは徹底しており、ミスや不正に関しては莫大な罰金が課せられる。消費者は安心を自動車メーカーに期待するどころか、安心・安全であることはある意味で当たり前でなければならない。

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