サイバー空間の権力論

2015年10月3日

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塚越健司 (つかごし・けんじ)

拓殖大学非常勤講師

1984年生。専攻は情報社会学、社会哲学。著書に『ハクティビズムとは何か』(ソフトバンク新書)、共編著に『「統治」を創造する』(春秋社)、など。TBSラジオ『荒川強啓デイ・キャッチ!』火曜ニュースクリップ担当としてレギュラー出演中(http://www.tbsradio.jp/dc/)。

 一方、IT産業は自動車産業に比較すれば、ある意味で不完全でも商品を提供し、逐一改善していく方式を採用している。そこではむしろ完全という概念を予め想定しておらず、状況に合わせて常にアップデートが要求されているからこそ即座の対応が求められ、その結果として業界全体のスピードが早いことに特徴がある。例えば、iPhoneに搭載されるiOSの使いやすさをめぐって消費者は即座に意見を述べ、そうした意見を参考にしてアップルはiOSのアップデートを提供する。消費者と企業の間の親密な関係もさることながら、消費者である我々もまた、そうした環境、つまりバグやミスを前提とした消費環境を生きている。

 こう考えるだけでも、物理的なモノ、商品としての自動車と情報産業の差異は明確になる。自動車がIT化することから、自動車も今後は自動でセキュリティアップデートを行うようになり、スピーディーな対応を求められていくことだろう。他方で製品のクオリティは高度なものを要求される。これらの作業を多様な業界が緊密に連携して行っていく必要があるのだ。

自動車業界の課題

 保険業界の縮小化がハッキング対策保険によって補填可能かどうかには疑問が残る。ハッキング事故の総量を考慮しても、従来と同様の経済規模を保険業界が維持することは難しいだろう。それでも保険の役割は今後も継続する。なぜなら、ハッキング以外にも、未来の自動車には様々な不安定要素があるからだ。

 例えば、自動運転による過失が生じた場合、それは消費者と企業、どちらに責任が生じるだろうか。通常は企業の技術に起因すると考えられるだろう。しかし、自動運転車の持ち主が、自動運転車に持ち主自らが考えた独自ルートを走行するよう指示し、そこで事故が生じればどちらの責任になるか。こうした問題は思考実験するだけでも多くの問題が山積していることを我々にしらしめる。法整備の問題であると同時に保険を含めた4つの業界全体に重くのしかかる。

 4つの業界はそれぞれの慣習も目的も多様だ。その中で我々消費者が望むことは、ただただ安全に自動車を運転すること、あるいは自動車が運転してくれることである。数年から数十年にかけて、自動車のあり方が問われるとき、業界の垣根を超えた懸命な議論が展開されなければならないだろう。

  
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