オトナの教養 週末の一冊

2015年10月4日

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中村宏之 (なかむら・ひろゆき)

ジャーナリスト

1967年生まれ。91年、慶應義塾大学経済学部卒、読売新聞東京本社入社。ロンドン特派員、米ハーバード大学国際問題研究所研究員、経済部デスク、調査研究本部主任研究員などを経て2017年4月より読売新聞東京本社メディア局編集部次長。『御社の寿命』、『世界を切り拓くビジネス・ローヤー』、(いずれも中央公論新社)など

 読む人によって評価が分かれる本であろう。人生で直面する様々な局面について、「損か得か」を突き詰めて考えた本である。

 本書は一見、賢い消費者になるために必要な本と見ることもできるし、一方でなぜここまで損得にこだわる必要があるのか、といった点についても様々な見方ができる本である。

 前半に「家電デモクラシー」という章があるが、ここでは、ブラウン管式テレビが壊れた時に、買い替えに逡巡する著者の姿が描かれている。普通、今の時代、ブラウン管テレビが壊れたら、しかも新聞にテレビの番組表を書いている人であるなら、なおさらすぐに買い替えるべきものだと思うが、著者は大いに迷うのである。著者なりのこだわりが縷々、記述されているが、正直、世の中にはいろいろな考えを持つ人がいるものだと思わずにはいられない。自分なら即決断する場面だが、まさに人それぞれである。

 本書で紹介されているが、「損をしたくない」という考えの下で、逆に「企業に損をさせたい」と本気で考えて、買い物にあたって可能な限り多くのポイントを稼ごうと知恵を絞って奔走する女性の姿も印象的だ。

 「(企業は)儲けが先で消費者は後。そもそも値段が高すぎる。高く取ろうとしているんだから引かれるのは当たり前なのよ」

 こう信じ込んでいる女性は、ポイントを稼ぎまくって企業に「一矢報いたい」と思っているのだろう。そうした発想を否定はしないし、いろいろな考え方があるだろうが、日々の買い物でポイントを稼ぐことばかり考えていては疲労するし、消耗もするだろう。

 しかし、日本社会には昔から「損して得取れ」といった気風もある。短期的な損失が出たとしても、長い目で見て得するのであればトータルに考えようという発想だが、ここは、著者も述べているように、一つ一つの取引に損しないように完璧なリスクヘッジを重ねるような欧米流の資本主義の発想とはとても相いれない。

 日常生活においても、損をしないように無理な節約を重ねていては結局長続きしない。「生きたカネ」の使い方を選択することも大切だ。例えば、最初は一時的に損があるような投資やビジネスであっても、いずれリターンが着実に得られることが見込めるのであれば、その投資は効果的なカネの使い方だと見ることができよう。

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