江藤哲郎のInnovation Finding Journey

2015年10月15日

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江藤哲郎 (えとう てつろう)

ベンチャーキャピタリスト

 鹿児島県出身。1984年慶應大商学部卒業。同年(株)アスキー入社。86年マイクロソフト(株)設立に参加し、マーケティング部長代理としてWindowsコンソシアム、マルチメディア国際会議等を立ち上げる。

 92年(株)電通入社後、デジタル・コンテンツの開発とビジネス化を推進。2002年から情報システム局でSAPアジア共通会計システムを中国・アジアの30拠点に導入他、国内外の全システム開発を担当。2013年から経営企画局専任局次長として、電通が約4,000億円で買収したイージスとのグローバルIT統合の責任者。

 2015年7月、ワシントン州カークランドにInnovation Finders Capitalを設立。AI、ビッグデータ等スタートアップを日本と繋げる。家族は妻と一男。
 

 スージーはハーバード大卒業後、ハーバードビジネスレビューの編集長をしていたが、当時まだ前妻と住んでいたジャックとの仲を報道され、退任を余儀なくされた。しかしジャックと再婚後はジャック本を何冊も手掛け出版した。何しろジャックには「イノベーションをもたらす二つの方法」(独創的で役立つものを見つける、改善を常に行う)という格言があり、イノベーションファインディングの専門家としては今後もその言動は見逃せない。

 講演者の中で私が最も印象深かったのは、IBMのWatsonエコシステムのCTOでありチーフアーキテクトでもあるスリダール・スダーハンが行ったものだ。AI(人工知能)が人間の仕事を奪うのでは? という懸念が生じ始める中で、Watsonはグーグルやマイクロソフトが目指すアプローチとは違う路線を行っている。Watsonはあくまで人間の意思決定のサポートをする。スリダールはその点を強調し、実例として癌の早期発見のためにWatsonを応用した例を説明した。これまでの癌検査においては医師が自身の経験値に基づき、頭の中の事例を呼び起こして診断したが、Watsonは世界中の癌検査に関する過去データを全て読み取りデータベース化し、医師の診断を支援する。それがもう実用化されているのだ。

シリコンバレーにつながるフリーウェイ101の入り口©Nonori Kohira

 会場では毎日、ピッチと言われる短時間のプレゼン大会があり、優秀なスタートアップの表彰が行われていた。13歳にしてレゴを使った激安プリンターを開発しホワイトハウスに招待されたシュバム・バネルジーはその時の体験談を披露した。会場から笑いもとるジョークを飛ばす余裕のプレゼンだった。かく言う当社もその中に混じりピッチをしてみたらもう大変、黒山の人だかりとなり名刺が底をついてしまった。彼らの日本市場への関心は高い。インドの技術が西からではなく東からしかもグローバルスタンダードとなって日本に紹介される日も近いだろう。

TiE会場でインドのネットTVにインタビューされる当社トム佐藤

 そもそもインドはITではオフショアの受け手として知られる。TCS(タタ・コンサルタンシー・サービシズ)やインフォシスがその代表例だ。近年はBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)の担い手として会計や総務といった一連のバックオフィス業務で急成長している会社もある。GEからスピンアウトしたGenpactがそのひとつである。

アントレプレナーを大量に輩出するインド系住民

 私は電通時代にサティヤムという当時の大手ベンダーにインド拠点へのSAP導入を発注したことがある。その際にPM(プロジェクトマネジャー)を決めるのだが、同社の営業担当から受け取った体制表と職歴リストを見て、ふと疑問に思い質問したことがある。チームの中で一番若く経験も浅い人間がPMに据えられているのだ。しかし聞いた答えに驚いた。その人間が優秀でカーストも高いから、と言うのだ。優秀なのはいいが、カーストか……。

 この件は後にプロジェクトに遅延が生じた際、そのPMがチームメンバーを巧みにリードし、最終的にはスケジュールに間に合わせるというパフォーマンスを発揮するのを目の当たりにすることになる。ただし、定例の電話会議になると毎度会議開始後、時間の半分くらいはこのPMが遅延の理由を延々と捲くし立てるのには閉口した。それもカーストが低い仲間を守る口上の一つであったのだろう。ちなみにこのサティヤムは後にインドのエンロン事件と言われる巨額な粉飾決算が発覚し、経営者は逮捕、現在も係争中である。インドはまだまだ不正の温床が、と思っていたが最近日本で起きていることを見てまた唖然とする日々ではある。

 斯くの如く従来の私のインドITに対する印象は、まずアメリカ、日本、欧州との時間差を利用した労働集約的な開発運用やBPOの受け手であり、大量の人員に支えられ安さを競ってきたというものだった。しかしTiEに参加して、それは180度転換した。インド系住民はアメリカの地で、ITを中心にアントレプレナーを大量に輩出し始めている。

 WSJ Asia Edition9月25-27日号には、なるほどと頷くデータ掲載がある。シリコンバレーのスタートアップの8分の1はインド系住民が起業しているが、彼らの人口はアメリカ全体の1%未満に過ぎない。その成果だろうか、インド出身者がCEOの大手企業は、マイクロソフト、アドビ、ペプシコ、グーグルと枚挙に暇がなく、ルイジアナ州とサウスカロライナ州の知事もインド系。これらは高学歴率に支えられていて、70%のインド系住民が大学卒以上だ。

 シリコンバレーに移り住んだインド系アメリカ人は、それを梃にさらにこの地で高い教育を受け、逞しく起業し、イノベーションを起こしてグローバル市場を目指しているのだ。TiEのEがアントレプレナーシップである事はシリコンバレーで勝負する彼らのビジョンと決意を示していると言ってもいい。

※PC版、最初のページ、ゴールデンゲートブリッジの写真は、©Naonori Kohira

  
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