2024年4月16日(火)

オトナの教養 週末の一冊

2015年10月11日

 実直なルポを読みながら、同時に私は著者がどう家庭と音楽活動と執筆のバランスをとってきたのかと思った。文中明らかなように、寺尾さんは3人の娘をもつシングルマザー。娘たちの「世話を頼んだ母親」とあるが、それでも取材・執筆の他に、本業の作詞・作曲や遠出のライブ活動がある。

寺尾紗穂(Saho Terao)
1981年東京都生まれ。2007年ピアノ弾き語りによる『御身 onmi』でメジャーデビュー後、映画やCMに楽曲提供。エッセイ等も手がける。近著に『南洋と私』。

 「今ライブは月5本、たいてい日帰りで夜行バスです。朝、下の娘2人の保育園への送りに間に合うようにですけど、基本は母任せですね。私、母親に向いていないのかも」

 執筆は昼間。下調べは国会図書館で集中的に行い、取材はなるべく演奏旅行の行きか帰りに組み込むとのこと。驚くのはライブに向けての音楽の予習だ。ピアノの弾き語りが多いのだが、「練習はゼロ」。すべてがぶっつけ本番なのだ。年に10曲ほどの新曲作りは、「思いついた時に急に湧いてくる」らしい。

 完全燃焼に近い充実した日々、の如く思えるが本人の胸中は別のようだ。

 「違和感というか、移住したいなと、東京より西に。3・11以後、娘たちの食べる物が気になるんです……。母にはすごく世話になり感謝してますが、やはり実家を出ようと」

 取材中ずっと寺尾さんは作家と歌手の表情だったが、この時にふと「母」の横顔を見せた。

  
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◆Wedge2015年10月号より

 


 

 

 


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