シリア・米露代理戦争の様相
長期戦想定の露は歌手、ダンサー同行


佐々木伸 (ささき・しん)  星槎大学客員教授

共同通信社客員論説委員。ベイルートやカイロ支局長を経て外信部副部長、ニュースセンター長、編集局長などを歴任。

WEDGE REPORT

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ロシアによるシリア内戦への軍事介入で、オバマ大統領が恐れていた「米露代理戦争」の様相が深まってきた。アサド・シリア政権への空爆支援を強化するロシアに対して、米国製の対戦車ミサイルが大量に反体制派に手渡され、実戦で大きな成果を挙げている。シリア内戦は過激派組織「イスラム国」(IS)が弱体化しないまま、戦闘が激化し、底なしの泥沼状態になってきた。

サウジが米国製ミサイルを供与

 この反体制派に流入しているTOW対戦車ミサイルは、サウジアラビアが2013年に米国から購入した1万3000基の一部と見られており、米国の了承を得て供与が行われている。反体制派の指揮官の1人は保有しているミサイルについて「500基くらいか」と聞かれて冷笑し、一桁違うことを示唆した。反体制派は数千基に達するミサイルを保有しているようだ。

10月17日、モスクワの広場でシリア空爆を反対するロシア市民(Getty Images)

 同指揮官らは最近、このミサイル7基を使ってアサド政権軍の装甲車両7台を破壊した事実を引き合いに出し、100発100中の精度を誇っていることを明らかにした。ロシアの空爆で一時的に後退を余儀なくされた反体制がこのミサイルを戦場で使用するようになってから、アサド政権軍の進撃が止まっており、ミサイルの効果が絶大なものであることを示している。

 特に北部の激戦地で、同国第2の都市アレッポ周辺では、アサド政権軍と、これを支援するイランの革命防衛隊数百人、レバノンのシーア派武装組織ヒズボラの戦闘部隊がロシアの空爆支援を受けて、大攻勢を掛けようとしていたが、このミサイルの前に作戦の変更を余儀なくされているもようだ。

 反体制派の主力は、穏健派の自由シリア軍とイスラム主義者勢力の連合軍「遠征軍」。この中には国際テロ組織アルカイダのシリア分派「ヌスラ戦線」も含まれており、オバマ政権はこうした過激派に最新兵器が渡ることを警戒して武器供与には消極的だった。

 しかし国防総省が5億ドルもかけて行っていたシリア人部隊の創設計画が破綻し、シリア政策が行き詰まった上、ロシアの軍事介入で早急な対応が迫られ、反体制派への直接的な軍事支援に踏み切らざるを得なくなった。これまで米軍の輸送機が小火器と弾薬など数百トンに上る軍事物資を反体制穏健派と親米のクルド人武装組織に投下、供与した。

 ただし、対戦車ミサイルについては、戦況に与える影響があまりに大きいという判断から直接供与することはせず、同盟国のサウジアラビアが供与するのを黙認する形を取っている。反体制派は最近、ロシア軍機を狙うスティンガーなど携行型の対空ミサイルの供与も要求した。

 かつてアフガニスタンに侵攻したソ連軍の航空機や武装ヘリがこの対空ミサイルの餌食になったことは記憶に新しい。反体制派が対空ミサイルを入手するようになれば、既に「米ロ代理戦争」の様相を深めている内戦が一段と激化するのは必至である。

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