オトナの教養 週末の一冊

2015年11月22日

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足立倫行 (あだち・のりゆき)

ノンフィクションライター

早大政経学部中退後、週刊誌記者などを経てノンフィクション作家に。近著に『血脈の日本古代史』(ベスト新書)『倭人伝、古事記の正体』(朝日新書)。

 5年前に84歳で他界した森一久氏は、約半世紀にわたって原産(民間のシンクタンク、日本原子力産業会議)に君臨し「原子力村のドン」と呼ばれた人物。本書はそんな森氏の波乱の生涯を通して見た業界の内幕だ。

 「3・11以後、原子力業界は一枚岩の悪徳集団と思われています。でもさまざまな人間がいるし曲折もあった。その本当の歩みを知るには、原子力ゼロ時代から中心にいた森さんに着目すればいいと思いました」

 著者の藤原さんによれば、口の堅い業界人も「森さんのことなら」「よくぞ取り上げてくれた」と取材快諾が相次いだという。

 森氏はケタ外れの知識・人脈・行動力から「ドン」と呼ばれたが、私利私欲で動く人ではなかった。学究肌の温和かつ冷静な人物であり、「信念の人」「正論の人」だった。

 自分を「原爆の子」と称したのは、京都大学の湯川秀樹教室で理論物理学を学んでいた19歳の時、広島帰省中に原爆の直撃を受け、両親など肉親5人を亡くし自らも白血球欠乏で生死をさまよったからだ。

 恩師の勧めで戦後は科学記者になり、その後業界組織に身を投じたが、自分の人生を翻弄した原子力の「平和利用の道を探る」ことを「宿命」と受け止めていた。

 「私も理系なのでわかるのですが」

 と、北大工学部出身の藤原さん。

 「戦後しばらくは原子力の黎明期。原子核物理学も原子炉開発も最先端科学で、志ある人は皆パイオニアを目指したんです」

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