2024年4月24日(水)

WEDGE REPORT

2015年11月17日

 今年3月、ユタ州が銃殺刑を復活させる法案を通過させた。「死刑執行予定日の30日前までに薬剤が入手できなかった場合」に限るが、それ以前は銃殺刑は「死刑囚本人が希望して選択した場合」とされていた。これは全米で議論を巻き起こしたが、それほど薬剤による死刑が困難になっている現状も明らかにした。

 今回全米で最大の死刑囚を抱えるカリフォルニア州が死刑再開に向け一歩を踏み出したことで、米国では死刑の是非という論議が再燃しそうだ。

安楽死では認められる1種類のみ薬剤

 カリフォルニア州の場合、749人の死刑囚にかかるコストは年間1億5000万ドル、という試算がある。この数字は死刑囚による再審請求などの法廷コストを差し引いた金額だ。

 「これだけ多大な税金を使って執行されない死刑囚を収監しておく必要があるのか」「死刑を廃止して終身刑とすることでコストは軽減できる」という意見がある反面、「死刑を再開し死刑判決から執行までのスピードアップを図るべき」という反論もある。

 いずれにせよ、1種の薬剤による死刑執行は今後公聴期間が設けられ、早ければ来年11月の住民投票にかけられることになる。そのため死刑賛成、反対を標榜する各種団体が今後活発な活動を繰り広げることになるだろう。

 皮肉なことに、カリフォルニア州は今年「安楽死法」を可決させ、来年1月から実施される。余命半年以内と宣告され、本人が望む場合、医師が「死に至る薬」を処方できる、という法案だ。こちらは最初から1種類の薬剤が使用される。今回の死刑方法の変更も、基本的には安楽死と同じ1種の薬剤により死刑を執行する、という内容だが、死刑反対論者からは「薬剤投与により死刑囚に多大な苦しみを与える可能性がある」との反論がある。

 なぜ同じ薬剤が安楽死の観点からは認められ、死刑の観点からは敬遠されるのか。この矛盾こそが米国の死刑執行の現状を象徴しているのかもしれない。

  
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