2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年12月1日

 10月27日、米国は南シナ海において「航行の自由作戦」の実行に踏み切りました。それに関して、ワシントン・ポスト紙とウォールストリート・ジャーナル紙が社説を掲げ、この作戦の実施を支持しています。要旨は以下の通りです。

Getty images

ワシントン・ポスト「ラッセンの定期的な通航を」

 10月27日、イージス艦ラッセンは南沙諸島の礁の近傍を通航した。予想された通り、中国外務省はその領域の侵害であるとして「強い不満と断固たる反対」を表明し、「必要な全ての措置をとる」と述べた。潜在的な衝突のリスクが高まったように聞こえるが、オバマ政権の決断は正しく、そもそもとっくに行われて然るべきことであった。

 南シナ海における不埒で法的根拠を欠く領有権の防衛のための中国の挑発的行動に領有権を争う諸国は警戒感をつのらせていたが、これら諸国は米国が対応しようとしないことに同様警戒感を有していた。米国海軍はかねて中国の挑戦に対応すべきことを論じていたが、首脳会談を控えて、オバマ大統領が許可を留保していた。首脳会談で習近平国家主席はこれら人工島を軍事化しないと怪しげな約束をしたが、この約束は実際に試される必要がある。

 これが、定期的な通航が今後も継続されるべき理由の一つである。もう一つの理由はこれが国際法の下で疑いもなく合法だということである。人工島は12海里の領海を有しない。領域が侵されたという中国の主張は9段線の主張に依拠するが、この主権の主張と米艦のパトロールに対する異議を根拠づけるものは何もない。

 習近平は中国がこの地域の物理的現状を変更する間、米国にブラフをかけて傍観させておくことが出来ると結論付けていたらしい。そうではないことを習近平に解らせるためにはラッセンの行動のような更なる行動を必要とするだろう。

ウォールストリート・ジャーナル「作戦日常業務に」

 ラッセンにスビ礁とミスチーフ礁の人工島の12海里内の海域を通航させたオバマ大統領の決定は正しい。これら人工島の周囲の海域、空域に対する中国の主権の主張に根拠のないことを明確にするためには更に多くのこの種のパトロールが必要となる。これら二つの礁は低潮高地であり、領海を有しない。

 驚くべきは中国の動きに挑戦するまでの遅延である。習近平の訪米の雰囲気を壊すことを怖れてホワイトハウスは逡巡した。遅延は高価についた。この間に中国は埋め立てを加速させ、中国海軍は主権の侵害には「正面からの一撃」をもって臨むと脅かした。27日、中国外務省は米国の行動は「違法」だと言い、中国艦船がラッセンを追尾した。

 中国の今後の出方は判らないが、米国が更に通航を続けなければその努力は損なわれる。作戦は日常業務とされるものであり、疑いを持たれている米国の気迫を証明するためには一回のミッションでは充分でない。また、特に価値があるのは豪州、日本、フィリピン、そしてもしかしてインドネシアとともに行う合同パトロールであろう。インドネシアが参加すればマレーシアとシンガポールも参加するかも知れない。

出 典:Washington Post‘Obama was right to order a sail-by in the South China Sea’(October 27, 2015)
https://www.washingtonpost.com/opinions/islands-of-trouble/2015/10/27/d8b6f5f6-7cc0-11e5-beba-927fd8634498_story.html
Wall Street Journal‘South China Sea Statement’(October 27, 2015)
http://www.wsj.com/articles/south-china-sea-statement-1445986915

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