2024年4月20日(土)

ベストセラーで読むアメリカ

2009年10月15日

 “Seriously,” Langdon said, “Washington, D.C., has some of the world’s finest architecture, art, and symbolism. Why would you go overseas before visiting your own capital?” (P28)

 「まじめなはなし、ワシントンDCには世界でも有数のすばらしい建築物や美術品、宗教的なシンボルがある。自分の国の首都に行く前に、どうして海外に行くのかい?」とラングドンは言った。

 かつて、パリのルーブル美術館では「ダ・ヴィンチ・コード」の本を手にした観光客が世界中から押し寄せたのを思えば、なんとも皮肉なセリフだ。

 確かに作中ではワシントンDCを巡る隠れた歴史が語られる。

 It was no secret that D.C. had a rich Masonic history. The cornerstone of this very building had been laid in a full Masonic ritual by George Washington himself. This city had been conceived and designed by Master Masons - George Washington, Ben Franklin, and Pierre L’Enfant - powerful minds who adorned their new capital with Masonic symbolism, architecture, and art. (p26)

 「ワシントンDCがフリーメーソンの歴史に彩られていることは何も秘密ではない。(国会議事堂の)この建物の礎石もジョージ・ワシントンその人の手により、フリーメーソンの儀式にのっとり据えられたものだ。この都市自体が、ジョージ・ワシントンやベンジャミン・フランクリン、(建築家の)ピエール・ランファンというフリーメーソンの大物たちによって構想され形作られたのだ。これら影響力のある知性たちが、フリーメーソンのシンボルや建築、美術で新しい首都を飾りつけたのだ」

びっくりのジョージ・ワシントン像

 国会議事堂のドーム型天井を持つ円形大広間(ロトンダ)のシーンでは、広間にはかつて、ローマンのパンテオン神殿にあるゼウス像と全く同じポーズをとり神格化したジョージ・ワシントンの彫像があったことをラングドン教授は解説。居合わせた人たちが納得しないのに対し、ブラックベリーを持っている人にこう言う。

 “ Google ‘George Washington Zeus.’ ”  (p87)

 「グーグルで‘ジョージ・ワシントン・ゼウス’を検索しなさい」

 もちろん、読み手にも同じ呼びかけをしているわけで、思わず評者森川もグーグルして画像をみて驚いた。アメリカの国政の場に、こんなものがあったとは。

 本書はワシントンDCの観光ガイドブックとしても役に立つのだ。前作の「ダ・ヴィンチ・コード」が出版された6年前の時点では、外国為替市場では1ユーロ=1ドルだったのが、いまは1ユーロ=1.5ドルと、ドル安が大幅に進んでいる。高いユーロを買ってヨーロッパに行くよりは、アメリカ国内で旅行した方がアメリカ国民には好都合でもある。世界的な金融危機を受け、各国が国内産業の保護に傾斜するなか、余力のなくなってきたアメリカでも内向き志向を強めている現状に、本書の舞台設定は歩調が奇妙にあっている。


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