2024年4月26日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年12月11日

台湾との面倒事避けたい中国

 今回の首脳会談に、馬英九は政治レガシー作りと選挙での国民党テコ入れに利益を見出したかもしれませんが、習近平にはもっと大きな戦略があったように見えます。習近平は硬軟両様のメッセージを出しました。両岸地域に配備されたミサイルの削減を求めた馬英九に習近平は台湾に向けられたものではないと空々しい主張をしましたが、台湾統一についてはきついことは言わず、AIIBについては「台湾が適切な手法で参加することを歓迎する」と前向きな反応を示しました。年初には台湾のAIIB加盟を拒否していました。これらのメッセージを次期総統に向けて送りたいと考えたのでしょう。今回の会談は、「習馬会談」というよりも「習蔡間接会談」だったと言えるでしょう。

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 習近平にとっては、当面は東シナ海や南シナ海に集中すべく、台湾との間で問題を起こしたくないとの戦略があるのではないでしょうか。中国は優先順位が明確な国です。

 マニングは、中国が台湾のTPP参加を認めるかどうかに注目し、台湾が国際社会からますます疎外化されていることを懸念しています。しかし、中国を差し置いて台湾がTPPに参加することには、中国の強い反発が予想されます。

 マニングは、民進党総統との首脳会談が行われるかどうかにも注目しています。民進党は、台湾は既に事実上の主権独立国家になっていることを基本的立場としています。11月7日に発した談話で、蔡英文主席は、中台首脳が「一つの中国」の原則を確認したことは「両岸関係における台湾人の選択を制限した」と述べています。蔡英文は両岸関係の現状を元に戻すことはしないと明らかにしているので、その点で中台は一致できます。しかし、中国が統一問題を出せば両者は原則論でぶつかるでしょう。蔡英文は国際機関やFTA等への参加を強く主張するでしょう。新総統の下で中台関係がうまくいくかどうかは習近平の出方次第ということになるのでしょう。なお、最新の世論調査によれば、民進党のリードは微増しており、首脳会談は国民党の支持増大には繋がっていません。

 引退間際の政治家がこういう大きな外交行事をすることには、デモクラシーにもう少し謙虚であるべき、との感想を禁じ得ません。中台関係については本来台湾人の民意が重要であり、それは選挙によって分かることです。

  
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