IS指導部、リビアへ脱出準備か
地中海都市が“第2のラッカ”


佐々木伸 (ささき・しん)  星槎大学客員教授

共同通信社客員論説委員。ベイルートやカイロ支局長を経て外信部副部長、ニュースセンター長、編集局長などを歴任。

WEDGE REPORT

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過激派組織「イスラム国」(IS)の指導部はシリアの支配地が陥落した時に備え、北アフリカのリビアに大脱出する計画を準備しつつあるようだ。脱出先の地中海の沿岸都市シルトにはすでに外国人戦闘員とその家族があふれ、“第2のラッカ”の様相だ。

ロンドンで行われたシリア空爆反対デモ(Getty Images)

ISの撤退計画 

 ニューヨーク・タイムズやウオールストリート・ジャーナルなど米メディアなどが伝えたところによると、内戦状態にあるリビア中部の地中海沿岸にあるシルトは完全にISの支配下に置かれ、外国人戦闘員ら約5000人が集結、まるでシリアの首都ラッカと同じような状況だ。

 シルトにISの黒旗が最初に掲げられたのは1年前。その時の勢力はわずか200人にも満たなかったことから見ると、ISが組織的にシルトの増強を図ってきたことが分かる。ISの宣伝機関も最近、シリアではなくリビアに行くように外国人に呼び掛けている。

 この点について米国防総省高官はNYタイムズに「撤退計画」と述べ、IS指導部が活動本拠であるシリアとイラクから掃討された時に備え、リビアへの脱出計画を準備している可能性があり、これを西側情報機関が憂慮していることが明らかになった。

 9月末にロシアがシリアに軍事介入し、11月13日のパリの同時多発テロ以降、米ロやフランスのIS攻撃が激化し、英国も3日からシリア空爆を開始したことで、ISのこの脱出計画が加速する可能性もある。米英は特殊部隊をリビア国内に投入し、情報収集と監視を強化している。

 ISは空爆強化にも組織が直ちに崩壊するような兆候を示してはいないが、戦況は明らかに劣勢だ。6月にはシリアの戦略的な要衝タルアブヤドから掃討され、11月にはイラクの町シンジャルを失い、ラッカと占領中のイラクのモスルとの重要な補給ルートがクルド人勢力に制圧された。

 シルト周辺には当初、「アラブの春」で独裁者カダフィ大佐を打倒した強力な民兵部隊がいて、IS勢力と戦闘を続けていたが、外国人戦闘員の増強により敗北。ISが8月までにシルトを完全な支配下に置いた。現在はシルトを中心に地中海沿岸を東西に約250キロの一帯がISの勢力圏になった。

 ISに忠誠を誓った組織はエジプトやアフガニスタン、インドネシアなど世界各地に多数存在しているが、シルトの組織はシリア本家のISが唯一、直轄統治の“天領”にしている特別な地位にある。シルトには70万人が居住しているが、すでに厳しいイスラム法が施行され、住民らはラッカ同様、厳しい宗教警察の監視下の生活を強いられている。

 ラジオ局は音楽の代わりに、ISの指導者アブバクル・バグダディを称える番組を流し、女たちは全身を覆うマント着用を強いられ、酒は無論、タバコも禁じられている。学校の教育もコーランの勉強中心に変わった。首の切断による処刑も開始、抵抗した部族は殺され、8月には4人が十字架に掛けられた。

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佐々木伸(ささき・しん)

星槎大学客員教授

共同通信社客員論説委員。ベイルートやカイロ支局長を経て外信部副部長、ニュースセンター長、編集局長などを歴任。

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