WEDGE REPORT

2015年12月10日

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浪岡新太郎 (なみおか しんたろう)

明治学院大学国際学部准教授

政治学者、仏国立エクス政治学院宗教研究所連携研究員。1971年生まれ。中央大学法学部法律学科卒業、立教大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程退学、日本学術振興会特別研究員、立教大学法学部助手、在仏日本大使館専門調査員、エクス政治学院招聘教授を経て現職。共編著に『排外主義を問いなおす』勁草書房、2015年など。

悩める若者受け止める場の不在

 フランスからのIS参加者は、フランスの環境と切り離された中でイスラームの教義教育を受けてきたわけではない。また、その出身が排除や差別された層に留まらず、中産階層にまで及んでいることを考えれば、ISへの参加を宣伝の巧みさやイスラームの問題とするのではなく、フランス社会での排除や差別、さらには自分探しの中で閉塞感を感じる若者を受けとめる場の不在の問題としてみることが重要だろう。

 閉塞感をもつ若者にとってのユートピア的思想、かれらを受け入れるオルタナティブな場が西欧には不在にみえる。このことが、シリア・イラクでのムスリムの境遇と実際には大きく異なる自分たちの排除や差別の経験を重ねることを、さらには、西欧と敵対するISの主張するムスリムの共同体のイメージに自分探しを重ねることを可能にするのだ。

 かつて冷戦下においては、共産主義が西欧社会にとってのオルタナティブとしての選択肢を示していた。しかし、ソ連が崩壊し、共産主義はもはや具体的な政治的選択肢としてのリアリティをもたず、市場競争が自明視され社会保障が削減される。こうした中、フランス社会で閉塞感を感じている者達にとってオルタナティブを見いだすことが困難になっている。

 この困難の中で、イスラームに依拠しながらオルタナティブを提示しようとする有力な団体が、「ムスリム青年連合」などの第二世代が中心となるイスラーム団体の主流派である。団体はイスラームの実践をスポーツ活動など孤立した若者の居場所作り、さらには消費社会批判などと解釈することで、閉塞感をもつ若者達にオルタナティブとなるような権威や社会的紐帯を提示する。こうした活動は結果的にISに対抗することになる。

 しかしながら、現在までフランス政府は左派右派を問わず、イスラームのスカーフ(ヒジャブ)着用を理由とした企業側の解雇を認めるなど、度重なる法改正によってイスラーム一般を公的秩序や人権に対抗的な価値をもつものとして警戒することで、こうした試みを否定してきた。これらの政治傾向は、ムスリム系移民出身者に対する差別やイスラーム脅威論を強化することで、ISが提示するイスラーム対西欧という二項対立軸を説得力のあるものにしてしまう。

日本とて対岸の火事ではない

 現在、ISの二項対立軸に対抗するためにフランスで必要な試みは、イスラームを一般的に否定せず、その多様性を認めること。そして、テロ対策の強化はもちろんだとしても、生活保障の仕組みを再構築し貧困と闘うこと。さらに、イスラームによるものも含む、多様な居場所作りを支援していくことである。とはいえ、こうした試みは、12月6日の地方選での、イスラーム排斥を掲げる極右政党「国民戦線」の圧倒的勝利(13のうち6地域圏で首位)を背景により困難になっていくようにみえる。

 そして、同時多発テロを西欧だけの問題とすることはできない。日本でも非正規雇用や貧困が広がる中で排除や差別が顕著になり、個人の自由や選択が人生において当然視される中で迷う人々が多く存在する。そうだとすれば、同時多発テロが提示した閉塞感とユートピアの不在という問題は日本にも共有される問題である。

  
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