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2015年12月26日

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澤 昭裕 (さわ・あきひろ)

国際環境経済研究所所長

1957年、大阪府生まれ。1981年一橋大学経済学部卒業後、通商産業省(現在の経済産業省)入省。東京大学先端科学技術研究センター教授等を経て現職。21世紀政策研究所研究主幹も務める。

除染目標「年間1ミリシーベルト」を政治決断した細野豪志環境相(当時) Giovanni Verlini / IAEA

 ところが、福島県市長会(13市)から強い抗議が出され、政府は方針を転換。10月2日に、細野豪志環境相(当時)が佐藤雄平知事(当時)に年間5mSv未満も支援対象とすると説明してしまったのである。この短期間で除染目標が大幅に引き上げられたことからみて、科学的な裏付けや実行可能性が精査されたとは考えられず、純粋に政治的な判断だったといえよう。

 しかし、目標を引き上げた結果、除染の作業負担は非現実的に大きくなり、効果も期待されたほどではなくなった。むしろ高すぎる除染目標が除染実施関係者と避難中の地元住民双方の心理的バリアとなり、一種の「呪縛」となっているのではないだろうか。

 除染効果の評価を、空間線量から実際の被ばくを測定する個人線量に本格的に移行させることや、除染以外の方法による放射線リスクの軽減を併せて実施することで、帰還の可能性を再評価することが重要だ。国もそうした方針を表明はしているが、実際の除染作業との関連付けがしっかりとなされているわけではない。個人線量への移行を確実なものとするためには、個人線量の把握と除染の重点化の関連付け方法などについて、引き続き地元に十分な説明を行っていく必要がある。

 いずれにせよ、もう一度出発点に立ち戻って、面的除染の基準を年間5mSvに戻すことによって呪縛から解き放ち、除染目標や作業の合理化に向き合う必要がある。仮に、それが政治的に難しいと判断される場合には、個人線量をベースとした基準値設定に切り替えたうえで、他の放射線防護措置の支援も考慮した多段階基準を採用することが一案として考えられる。

 例えば、年間20~10mSvは面的除染、年間10~5mSvは除染と防護措置との組み合わせとして最も効果的な方法を評価したうえで実施、年間5~1mSvについては、除染はホットスポットに限定し、他の防護措置の支援を主軸として個人線量の基準を達成するといった具体策を検討してはどうか。

国際機関の助言

 この点に関して、国際原子力機関(IAEA)は、「国際フォローアップミッション最終報告書」(14年1月)において、日本政府に対して次のような助言を行っている。

 「除染を実施している状況において、1~20mSv/年という範囲内のいかなるレベルの個人放射線量も許容しうるものであり、国際基準及び関連する国際組織、例えば、ICRP、IAEA、UNSCEAR及びWHOの勧告等に整合したものであるということについて、コミュニケーションの取組を強化することが日本の諸機関に推奨される。(中略)政府は、人々に1mSv/年の追加個人線量が長期の目標であり、例えば除染活動のみによって短期間に達成しうるものではないことを説明する更なる努力をなすべきである。段階的なアプローチがこの長期的な目標の達成に向けてとられるべきである。この戦略の便益については、生活環境の向上のために不可欠なインフラの復旧のために資源の再配分を可能としうる」

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