2024年4月24日(水)

Wedge REPORT

2016年1月21日

低圧縮比で低燃費のからくり

 それではなぜ、低圧縮で燃費が向上するのだろうか。一般的には高圧縮比の方が燃焼効率が上がり、出力向上と燃費改善が望めそうな気がする。ところがディーゼルの場合はそうならない。シリンダ内のピストンが上にあがり最も圧縮比の高まる上死点で燃焼させることができないからである。なぜなら、高圧縮比の場合、上死点では高温・高圧になりすぎてNOxやススが大量に発生するため、上死点位置から少し遅らせて、シリンダ内の温度と圧力が下がるのを待って燃料を噴射しているのだ。つまり、そのシリンダーの容積に見合った出力と燃費が得られないことになる。

 一方、低圧縮にすればピストン上死点付近で燃焼が開始でき、計算通りの出力と燃費性能が得られるのだ。圧縮比は少なくても膨張比が大きくなり燃費とトルクを向上できるという。さらに高圧縮比エンジンほど強度が要求されないためピストンやクランク、コンロッドなどを軽量化できるというメリットが出てくる。その結果、エンジン自身を回すための機械抵抗損失も少なくて済むようになる。前述の3つのパーツだけでエンジン全体の50%の機械抵抗を占めているという。機械抵抗を減らすことで低車速域での燃費も良くすることができ、渋滞や信号の多い日本の交通事情においても燃費向上が望めるのだ。

軽量化によりプラス1000回転を実現

 軽量化によって生まれたメリットは低燃費だけではなかった。機械抵抗の減少によってアクセルレスポンスが良くなり、最高回転数も5200rpm(回転毎分)を実現。NA(自然吸気)の大排気量ガソリンエンジンのようなトルク感と加速をディーゼルエンジンで味わえるようになったという。実際SKYACTIV-Dは2200ccの排気量で、ガソリンエンジン4000ccクラスに匹敵する420Nmのトルクをわずか2000rpmで発生する。

 さらなる工夫がツインターボである。ディーゼルの場合、ターボにはより多くの酸素を送って燃料を完全燃焼させる役割もある。そこでほぼアイドリング付近からターボを効かせる必要がある。低回転時には軽い排圧でも回る小型のターボを、高回転時には大型のターボを回して大量の酸素を送り込む仕組みだ。2000回転までを小型ターボが、3000回転から上は大型ターボ、その間は両方のターボを併用しているという。

他社の追従を許さない始動性の良さ

 取材を進めていくと低圧縮比のメリットは大きい。ところが他の自動車メーカーで圧縮比14を実現したところは見当たらないのはなぜだろうか。それは極冷間時の始動性の問題だという。SKYACTIV-Dエンジンが完成して最初にやったことはマイナス30度の冷凍室にエンジンを入れて、世界で最も着火性の悪い燃料を入れてエンジンが始動するかどうかを確認したという。ディーゼルエンジンはガソリンエンジンと違い、着火させるための点火プラグがない。

 その役割を果たすのが燃料噴射インジェクターである。低圧縮比で低温時に確実に着火させるには、高性能のインジェクターが不可欠となる。マツダはマルチホールピエゾインジェクターを採用し、燃料を燃やしやすくするためシリンダー壁に付着せず、シリンダー中心部に漂う霧状の燃料を形成するため、多段噴射を採用している。噴射口の開閉にピエゾ素子を使い、1/500秒に4回という素早いタイミングで燃料を噴射できる。

 さらにエンジンが冷え切った場合を想定して、高温の排気ガスをシリンダーに取り込む可変バルブリフト機構を装備している。これはシリンダーの排気バルブをバルブ切替機構付きスイングアームで少しだけ開いて排気を逆流させるもので、外気温が低くても安定した着火でエンジンを始動できる。

さらに進化を続けるディーゼルエンジン

 SKYACTIV-D2.2エンジン完成後、2014年10月から量産に入ったのが、SKYACTIV-D1.5である。今度はバリアブルジオメトイリーのシングルターボを採用。過給レスポンス改善のため水冷インタークーラーを使い吸気路の最短化をはかっている。さらにターボには回転センサーを付けレブリミットぎりぎりまで回しているという。また、ノック音を抑えるためにピストンとコンロッドを連結するピストンピンにナチュラル・サウンド・スムーザーと呼ばれるノック音の共振と逆相の振動を起こし相殺するシステムを開発した。

 マツダはまだまだ内燃機関には伸びしろがあると考えている。さらなる低燃費、さらなる走る歓びを追求していくという。低速から厚みのあるトルクとアクセルレスポンス、そして、2020年までにグローバルで販売するマツダ車の平均燃費を2008年比で50%向上させるという計画を掲げている。


新着記事

»もっと見る