2024年4月20日(土)

ヒットメーカーの舞台裏

2016年3月15日

 こうした性能アップは「開発者としてトコトンやりたいところ」だが、中平はコストとの兼ね合いで大いに悩まされた。本体に液晶モニターを付ける検討も行っていたが、最終的には見送りに。「全体の性能バランスを勘案しながら、お客様の求める価値を見極めて一点集中的にセンサーを重視した」のだった。

中平寿昭(Toshiaki Nakahira)
株式会社リコー 新規事業開発本部VR事業室
シニアスペシャリスト
1968年生まれ。91年に新潟大学工学部を卒業しリコーに入社。志望動機はカメラ開発で、念願叶って光学事業部に配属。以来アナログ、デジタルと設計に従事してきた。2005年発売で高画質コンパクト機の先がけとなった「GR」シリーズも担当。家庭でのTHETAは子供たちからも人気と喜ぶ。

 ハードの設計では「熱」が大きな障害になった。撮影時間の延長など動画撮影の性能を高めたことによって画像データの処理量も倍増、ICチップなどの発熱が高まったのだ。中平が試作前にシミュレーションすると「本体は持っていられないくらい、熱くなる」ことが分かった。放熱性の高い素材への見直しなどを検討したものの、コストや開発期間をクリアできない。結局、熱が拡散しやすい構造への地道な見直しや吸熱材の採用などによって切り抜けた。

 THETAは不動産業界での物件紹介のための室内撮影など、業務用途も増えてきた。また一般消費者では、スマホを使ったVR(バーチャル・リアリティー)用の機材としての利用も急速に広がっている。

 中平はこのカメラをさらに「正統進化」させたいと強調する。基本性能をまだまだ高めることだという。アナログ機の時代からカメラ開発一筋の実直さで「正統」を追求していく。(敬称略)
 

  
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◆Wedge2016年1月号より

 

 

 

 

 

 


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