2024年4月20日(土)

海野素央のアイ・ラブ・USA

2016年1月19日

 クリントン陣営では、チームリーダーが地上戦の核になっています。同陣営は、たとえマーティン・オマリー前メリーランド州知事の代議員数を増やしても、クリントン候補のライバルであるバーニー・サンダース上院議員(無所属・バーモント州)の代議員数を減らす戦略を盛り込んだアプリケーションをチームリーダーにダウンロードさせています。2月1日アイオワ州で開催される党員集会の最中に、チームリーダーはこのアプリケーションを活用して、戦略に関する質問をすると自動的に回答を得ることができます。同陣営のスタッフは、共和党陣営はもちろんオバマ陣営にもなかったと誇らしげに語っていました。

コミットメントカードとは

戸別訪問に出発する筆者(@アイオワ州デモインクリントン選対前)

 英語のコミットメントには、「約束」「宣誓」及び「関与」という意味があります。12年米大統領選挙でオバマ陣営は、確実に有権者に投票所に出向かせるために、コミットメントカードを用いた選挙戦略を立てて勝利を収めました。クリントン陣営はその成功例に学んでいます。では、同陣営がどのようにしてコミットメントカードを使用しているのかについて述べていきましょう。

「コミットメントカード(約束カード)」の表面(上段)と裏面(下段)。クリントン陣営の地上戦では、支持者の署名が入ったコミットメントカードの回収が最優先課題になっている
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 コミットメントカードの表面には、「私は2月1日に行われる党員集会でヒラリーを支持することを約束します」と記されています。ボランティアの草の根運動員は、標的となっている有権者の家を訪問した際、「クリントンを支持している」という回答を得ると、即座にカードを取り出し、その裏面に住所、名前、携帯番号及びメールアドレスを記載してもらい、次に表面にあるクリントン支持の声明に対して署名を求めます。従って、有権者にとってコミットメントカードは、いわゆる誓約書になります。

 回収したコミットメントカードは、一旦選対に持ち帰ります。投票日が近づくと、署名した有権者にコミットメントカードを送り返して、党員集会及び投票所に出向くように促します。投票日当日、運動員は署名した有権者の家を再度訪問し、投票に出向いたか否かを確認します。さらに、選対から署名をした有権者の携帯に電話を入れ、メールも送ります。このようにして、確実に標的となっている有権者を投票所に出向かせ投票率を高めるのです。

電話による支持要請を行うボランティアのアフリカ系の中学生(右奥)(海野撮影@アイオワ州デモインクリントン選対)

 12年米大統領選挙においてオバマ陣営は、コミットメントカードに投票に行く時間帯を記載させるほど徹底していました。クリントン陣営はそこまでは行っていません。オバマ陣営とクリントン陣営でコミットメントカードの運用が異なる例をもう1つ挙げてみましょう。オバマ陣営では署名をした有権者にはカードの半券を渡し、それを目のつく場所に貼っておくように依頼をしていました。半券には、有権者登録カード、学生証、自分の名前と住所が掲載された電話代や電気代の請求書、運転免許証のうちから1つを投票所に持参するように明記してありました。

 アイオワ州のクリントン陣営で使用しているコミットメントカードの半券には、オーガナイザーのメールやツイッターのアドレス及び同州の支持者で作るフェイスブックのアドレスが記してあります。しかし、同陣営では半券を有権者に渡すように指示が出ていません。選対の中で、有給のスタッフが半券を切ってしまい活用していないのです。筆者が現場で見る限り、クリントン陣営はオバマ陣営ほどの緻密さがないと言わざるを得ません。

コミットメントカードと署名の仕方

演説の冒頭、クリントン候補は各選挙区にいるボランティアのチームリーダーとメンバーに感謝の意を述べた(海野撮影@アイオワ州デモイン歴史博物館)

 コミットメントカードに署名をしても法的拘束力はないのですが、署名に対して躊躇し拒否する有権者は少なくありません。ボランティアの草の根運動員は、「投票に出向くのを忘れないようにするためです」と説明をしていますが、それでは説得力に欠けます。そこで、筆者は以下の方法で有権者に署名を求めています。

 第1に、「ヒラリーがデモインを訪問したとき、イベントを開催します。お招きしたいので連絡先を記載して頂けますか」とアプローチした後で署名を求めます。

 第2に、「支持者の数を正確に把握したいのです」と前置きをしてから署名を依頼します。

 第3に、「署名をして頂ければ、あなたの家のドアを叩いて悩ますことはもうしません。今、署名をして頂かないと、他のボランティアの運動員が来てあなたの家のドアをまた叩きます」と言って迫ります。

 ただいずれのアプローチをとっても、土地勘のない選挙区に出向き、母語でない英語を使いながら初対面の米国人有権者から、署名したコミットメントカードを得ることは、間違いなくハードルが高いです。氷点下が約10度近い日は、せっかく有権者を説得しても、ボールペンのインクが固まってしまい、明確に住所などの記載や署名ができず悪戦苦闘したケースもありました。それでもこれまでに、アイオワ州及びニューハンプシャー州で合計84名の支持者から署名を得ています(16年1月10日現在)。1日で15名の支持者から署名を獲得した日もありますが、平均しますと3.7名になります。

 コミットメントカードを回収しますと、クリントン候補の支持者の特徴が明らかになってきます。15年8月19日にアイオワ州デモインで32軒の戸別訪問を実施し、5人の支持者から署名を得ました。その際、ある重要な点に気づいたのです。署名をしてくれた有権者の内訳は、74歳白人女性、63歳白人男性、62歳黒人女性、58歳白人女性及び51歳黒人女性だったのです。前回の現地レポート「クリントン陣営の異文化連合軍」で指摘しましたが、クリントン候補の支持者は年齢層の高い既婚の女性が中心で、若者や未婚の女性の支持獲得が急務になっています。


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