2024年4月26日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2009年10月29日

 そうした中で今、中国知識人の間でこんな小話が出回っている。「G2」(ジー・ツー)は、中国語の「鶏・兔」(ニワトリとウサギ)に発音が似ている。「ニワトリとウサギは、似ているようで違う生き物。米国と中国は一緒にはなれない」というのだ。

 アヘン戦争を契機に西洋列強に侵食される19世紀まで、世界の「大国」として君臨した中国。西洋とアジアの大国が世界をリードするという歴史上例を見ない「G2論」に対し、愛国主義にあふれる若い中国人たちはさぞかし「中華ナショナリズム復興」と興奮しているだろうが、「鶏・兔論」と同じく、中国政府の反応は冷めている。

 中国政府幹部もこう憤慨する。

 「世界のグローバル化、多極化が進む中で2国支配など時代遅れであり、2国だけで世界を牛耳ることも不可能だ。中国政府として断じて受け入れることはできない」

 なぜここまで強硬なのか。それは、気候変動問題などで先進国と同等の国際責任を負わされることへの抵抗と、自由経済ルールと政治民主化を柱とする「米国モデル」を押し付けられることへの警戒があるのは言うまでもない。

 世界の大局は、これまで中国が「金持ちクラブ」と揶揄してきた「G7」で決められてきた。しかし今年9月の金融サミットでは新興国の台頭を受け、ついに「G20」が世界経済の重要課題を議論する恒久的な枠組みと位置づけ、中国は歓迎している。

 「G7」から「G20」への移行は中国では「中国モデルの勝利」と受け止められている。「米国モデル」の集まりである「G7」でなく、「G20」なら「中国モデル」も一定の影響力を持つことが可能だ。中国としては「先進国」ではなく、「世界最大の途上国」の立場を強調して国際影響力を高めた方が得策という判断もある。米国は「G7」を日・米・欧・中の「G4」に再編しようと検討しているが、中国は間違いなく反対だろう。

いずれ行き詰まる共産党の正統性

 果たして「中国モデル」の時代とともに、「中国」が「No1」として復活する日は来るのか。

 胡錦濤指導部の目標は「建国100周年となる2049年に富強、民主、文明、調和の社会主義現代化国家をつくり上げる」ことだ。近く日本を追い越すGDPで世界一の米国まで抜く日がやってくるとの楽観論も出ている。しかし問題は、「中国モデル」のままで、共産党の正統性を保ち続けることは可能か、ということだ。

 中国は1978年に始まった改革・開放以降、現在に至るまで高度成長によって国民に共産党の存在意義を知らしめ、その正統性を維持してきた。しかし「中国モデル」の実体であり、現共産党指導部が標榜する「社会主義市場経済」とは、社会主義という硬直した官僚体制の下、市場で得られた経済的うまみを、党幹部ら既得権益層が独占するという矛盾したシステムでもある。

 この体制では幹部の腐敗がはびこり、貧富の格差は拡大し続け、民衆の不満を抑えることは不可能である。つまりこのままではかろうじて保っている党の正統性が崩れ去るのも時間の問題だ。

 共産党は台湾の平和統一を通して中華ナショナリズムを高め、正統性を維持しようと躍起だろう。しかしいずれ、揺らいでいる自らの正統性を証明するため、選挙あるいは大胆な政治改革を行わざるを得なくなる日は必ずやって来ると言わざるを得ないのだ。

                                          ※次回の更新は、11月5日(木)を予定しております。

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