「犯された女の子供たち」
メキシコ麻薬カルテルが残虐な理由


藤原章生 (ふじわら・あきお)  毎日新聞記者

1961年、福島県生まれ。北海道大学工学部卒業後、住友金属鉱山に入社。89年に毎日新聞社に入り、ジャーナリズムの道へ。92年に外信部に所属し、 93年にメキシコ留学。帰国後の95年から南アフリカ・ヨハネスブルグでアフリカ特派員、2002年からは、メキシコ市支局長、ラテンアメリカ特派員。08年〜12年までローマ支局長。5 年半に渡るアフリカ特派員時代の取材を元にした著書『絵はがきにされた少年』(集英社文庫)で05年の開高健ノンフィクション賞受賞。著書に、『世界はフラットにもの悲しくて』(テン・ブックス)、『資本主義の「終わりの始まり」―ギリシャ、イタリアで起きていること』 (新潮選書)、『ギリシャ危機の真実 ルポ「破綻」国家を行く』(毎日新聞社)『翻弄者』(集英社)、『ガルシア=マルケスに葬られた女』(集英社)。

コラムの時代の愛−辺境の声−

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「メキシコって残酷じゃないですか殺し方が。バラバラにしたり、顔の皮をむいたり。あそこまでやられちゃうと残酷とか、怖いを超して、笑うところまでいっちゃうっていうか……。冗談みたいなこと、するっていうのか、遺体に対して。人の命、安いなあ、やすー、いやいや本当」

 先日会った40代の女性作家が雑談でこんな話をしていた。年明け、メキシコのニュースが世界を騒がしたせいもあるだろう。

 仲間にトンネルを掘らせて脱獄した麻薬王が再び逮捕された事件があった。逃亡中に米国の俳優ショーン・ペンがこの麻薬王にインタビューしていたことで、ニュース価値は高まった。また1月2日には、麻薬カルテルなど犯罪組織の撲滅をうたい就任したばかりの女性市長が、5人の武装集団に襲われ、家族もろとも射殺されていた。

 作家はニュースに触れ、麻薬カルテルの被害者のグロテスクな画像を連想したようだ。

メキシコ「死者の日」の飾り(iStock)

2000年代からメキシコで殺人が増えた理由

 統計を見てみると、メキシコでの組織犯罪も含めた殺人件数はさほどひどくはない。

 人口10万人当たりの殺人発生件数は18.91件で、世界第22位だ。1位は中米ホンジュラスの84.29件、2位はベネズエラの53.61件。それらに比べれば、まだ少ない。以下、米領ヴァージン諸島、中米のベリーズ、ジャマイカ、エルサルバドルと続き、すべてが中南米カリブ圏だ。

 30位までを見ると、アフリカ5カ国と南太平洋のツバルを除けば、すべてこの地域となる。殺人が多い土地柄と言えるが、メキシコが際立っているわけではない。人口5000万人以上の大国だけに絞ると、メキシコは11位のコロンビア、14位のブラジルの次に当たる。(http://www.globalnote.jp/post-1697.html

 それでも、よく「勤勉実直」などと評されるチリ(同3・14件)と比べれば、6倍も多く、メキシコが上位にいることは間違いない。ちなみに日本は0・28人で211位。大国では最も殺人が少ない。

 ただし、メキシコが他の国と違うのは、2000年代後半から増え続けているところだ。「他殺者数の推移」をまとめたグラフ(http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2776a.html)を見ると、人口10万人あたりの他殺者の概数は1995年、コロンビアが70人と最多で、これに南アフリカが66人と続き、メキシコは17人だった。その後、コロンビアは増減を繰り返した末、2002年から一気に減り始め、11年には33人に落ちた。南アも漸減し30人にまで落ちている。

 しかし、メキシコは04年までじわじわと減ったものの、その後横ばいとなり、07年に反転、11年には22人に増えている。

 米国やインドなど中くらいの殺人発生国を見ても、過去20年、減る傾向にある。つまり、メキシコだけで殺人が増えている。

 以上から言えるのは、メキシコはベネズエラやコロンビア、ブラジルよりも殺人発生率は小さいものの、過去20年ほどで倍増している、という事実だ。
原因はもちろん麻薬カルテルによる暴力だ。メキシコ検察当局の発表によれば、11年9月までの5年間に麻薬組織による犯罪や抗争で4万7515人が殺害された。この間の全他殺者数はざっと10万人ほど。つまり半分は麻薬に絡んだ犠牲者だった。

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著者

藤原章生(ふじわら・あきお)

毎日新聞記者

1961年、福島県生まれ。北海道大学工学部卒業後、住友金属鉱山に入社。89年に毎日新聞社に入り、ジャーナリズムの道へ。92年に外信部に所属し、 93年にメキシコ留学。帰国後の95年から南アフリカ・ヨハネスブルグでアフリカ特派員、2002年からは、メキシコ市支局長、ラテンアメリカ特派員。08年〜12年までローマ支局長。5 年半に渡るアフリカ特派員時代の取材を元にした著書『絵はがきにされた少年』(集英社文庫)で05年の開高健ノンフィクション賞受賞。著書に、『世界はフラットにもの悲しくて』(テン・ブックス)、『資本主義の「終わりの始まり」―ギリシャ、イタリアで起きていること』 (新潮選書)、『ギリシャ危機の真実 ルポ「破綻」国家を行く』(毎日新聞社)『翻弄者』(集英社)、『ガルシア=マルケスに葬られた女』(集英社)。

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