2024年4月19日(金)

古希バックパッカー海外放浪記

2016年3月6日

ディエン・ビエン・フーの塹壕

ディエン・ビエン・フーのフランス軍の巨大塹壕

 暗闇の雨中を一人で歩いていると次第に気持ちが落ち込んでくる。「負けるもんか」と自分を叱咤して前に進む。ベトナム独立戦争の勝敗を決したディエン・ビエン・フー(BDF)で見た仏軍の塹壕を思い出した。ホーチミン率いる独立軍ゲリラに包囲されて半年余りの塹壕戦だ。独立軍兵士には民族の独立という輝かしい未来が勇気と闘志を与えたであろうが、5000人以上の死傷者を出して降伏した仏軍の一般兵卒は何を支えに戦ったのであろうか。フランス植民地・海外県では伝統的に外人部隊が守備を請け負っているが、第二次大戦後のベトナムやアルジェリアの大規模な独立戦争ではナポレオン戦争以来の徴兵制度により徴発された一般市民が主戦力になったのではないか。

 そうした普通の兵卒は偉大なるフランスの植民地を赤化勢力から守るなどという空虚なスローガンを信じたのであろうか。現在では観光客もほとんど訪れない静かな盆地に眠っている巨大な塹壕は何を語っているのだろうか。国道1号線の雨中行軍でそんなとりとめのないことを考えていた。

 約1時間半歩いてようやく雨雲の彼方に市街地が見えてきた。どうもフエの町らしい。さらに30分ほど歩くが払暁前で町中でもほとんど灯りがない。銀行の常夜灯の下で地図を確認すると目指す格安ホステルは大河フォーン川を跨ぐ鉄橋の数百メートル手前のあたりである。街中があまりにも暗くて街路標識を見逃して鉄橋まで行ってしまった。

ホステルにチェックインすると部屋には一人の少女が

素敵なアート系学部の女子とオジサン

 午前6時前にやっと一泊400円のホステルにチェックイン。やっとベッドでゆっくり眠れると安堵して部屋に入るとベッドが3つ並んでいる。廊下側のベッドに女の子が寝ていたが、私が入ると起き上がって挨拶した。日本の女の子で大学1年18歳、獣医さんの勉強をしているという。ユミちゃんは初めてのバックパッカー、一人旅で何事にも興味津津。ユミちゃんは起き上がってベッドの背もたれに寄りかかり、私も隣のベッドに腰かけておしゃべりする。

 おじさんバックパッカーは珍しいらしく、あれやこれやと聞いてくる。くりくりした可愛い目をしており生き生きした表情がたまらない。昨日からの蓄積疲労が吹き飛んで早速“定年バックパッカー旅”、地中海編や韓国自転車旅行編を多少大仰に物語る。おじいさんのお伽話を聞いている孫娘のように目を輝かせている。私もグランパ気分になって語り部爺さんになる。どうも可愛い聴き手がいるとボルテージが上がり講釈師のように虚実入り混じる浪曲になってしまう。

 ふと気が付くと8時近い。ユミちゃんは8時半にチェックアウトしてハノイ行きのバスに乗ると聞いていた。「時間大丈夫?」と聞くと「ほとんど荷造りしてあるからシャワーだけ簡単に浴びて出かけまーす」と悠々たるもの。いずれにせよ乙女の出立準備の邪魔をしてはいけないとユミちゃんにサヨナラしてから朝飯を食べに街にでた。


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