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2016年2月3日

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村中璃子 (むらなか・りこ)

医師・ジャーナリスト

医師・ジャーナリスト。東京都出身。一橋大学社会学部・大学院卒、社会学修士。その後、北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機関)の新興・再興感染症対策チーム等を経て、医療・科学ものを中心に執筆中。京都大学大学院医学研究科非常勤講師も務める。

 しかし、ワクチンも治療薬もないジカ熱に、現状でできる対策は、蚊に刺されない、蚊を減らす、流行地に行かないの3つだけ。昼間に行動するヒトスジシマカが媒介するので、暑くても長袖・長ズボンを着用し、肌の露出部分には1日中こまめに虫除け を塗ることが必要だ。しかし、感染しても大きな問題となるのは胎児だけのようなので、注意が要るのは原則、妊婦だけと考えてよい。蚊に刺されること以外の感染リスクは未だ不明だが、感染者の精液や血液には大量のジカウイルスが含まれ、感染者の精液や輸血を通じて感染した症例が各1例ずつ確認されている。妊娠している女性や妊娠を望む女性は、念のためセックスや輸血にも注意した方が安心だろう。

つじつま合わぬ緊急事態宣言

 WHOが今回出した緊急事態宣言とは、WHO自身の定義(2005年)によると「国際的に流行する危険性があり、国際協調が必要とされる公衆衛生学上の緊急事態」のこと。英語では “Public Health Emergency of International Concern” 、略称の“PHEIC”は「フェイク」と発音し、「偽物」を表す英語“fake”と同じだ。2009年の新型インフルエンザ、2014年のエボラ出血熱に対しては出されたが、昨年、隣国韓国で流行したMERSに対しては出されなかったことは記憶に新しい。

 上述のとおり、ジカ熱は一般の人が感染したところで、大きな問題のある危険な病気であるとは言えない。ジカ熱は「国際的に流行する危険性」や「国際協調の必要性」がMERSよりも高いのであろうか。そんな違和感を持った人も少なからずいるだろう。病気の性質だけを考えれば、とくに後者の意味合いは弱い。

 今回の宣言で特に興味深いのは、WHOが緊急事態を宣言した理由を「妊婦の感染によって生じる小頭症発症のリスクによるもの」としながらも、妊婦を含む渡航制限を設けないとしていること。WHOが本当に国際協調の必要ありと判断したのなら、妊婦の渡航制限を付けなければ辻褄が合わない。

 一方、中南米を公衆衛生的な「裏庭」と考えるアメリカの、疾病予防管理センター(米CDC)所長のトム・フリーデンは、WHOの緊急事態宣言の直後、CNNに出演し、「一般のアメリカ人がジカウイルスに感染する可能性は極めて低いが、妊婦は流行地への渡航延期を考慮すべき」とWHOと一線を画する見解を表明し、日本もそれに倣う形を取った。

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