イノベーションの風を読む

2016年2月5日

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川手恭輔 (かわて・きょうすけ)

コンセプトデザイン・サイエンティスト

1990年代から、大手メーカーでインターネットサービスの企画・開発・運用を手がけ、自ら立案したグローバルなサービスを複数立ち上げた経験を持つ。その1つは、サービスのデザインでグッドデザイン賞を受賞した。コンピューターサイエンス関連の翻訳本も多数ある。

プロダクト・マーケット・フィットの必要性

 通信機能付きカメラが提供する新しい体験の価値を理解してもらうために、モバイル通信サービスを、例えば2年間無料にしてみてはどうだろう。通信のスピードやカメラのバッテリー消費などの技術的な課題を解決したり、Webサービスやスマートフォンのアプリを洗練させたりするためには、時間とユーザからのフィードバックが必要だが、まずは使ってもらわなければ始まらない。ユーザーから通信料金を徴収するのではなく、通信によって提供できる価値に課金する新しいビジネスモデルの設計も必要だろう。

 「CM-10」から通話機能が削除されたのは、おそらくデジタルカメラ向けのSIMサービス(「Wonderlink LTE L」)が、レッツノート専用の「Wonderlink LTE A」と同様のシステムを利用するために通話機能をサポートし難いというメーカーの勝手な都合からだろう。しかし、それによってスマートフォンとの2台持ちが必要になるのだから、デジタルカメラからスマートフォン機能を完全に取り除いて、撮影した写真をクラウドストレージに送るだけのモバイル通信に割り切ってしまえば、通信は上り回線だけを使用することになり発生するコストを軽減することができる。

 すでに無線LAN機能を備えたデジタルカメラやデジタルカメラ用のメモリーカードなども販売されているが、クラウドやSNS以外にもスマートフォンやパソコンへ写真を送ることもできるなど多機能である反面、接続のためのセキュリティ設定や用途別の設定の変更など使いこなしが難しく、利用できる場所も限られる。モバイル通信で「撮影した写真をクラウドストレージに送るだけ」と割り切ることによって、通信を意識せずに誰でもその価値を享受できるようになる。

 iPodやiPhoneの例を見ても、まったく新しい価値を提供しようという製品のプロダクト・マーケット・フィット、つまり製品を、狙う市場を満足させることができるものに育てるには少なくとも3年はかかると考えたほうがいいだろう。その時間で、人々の思いを積み上げ、製品や連携するサービスに改良を加える「構築 - 計測 - 学習」のサイクルを繰り返す必要がある。そして徐々に、その価値が人々に理解されていく。そのような取り組みには体力と根気が必要になる。

 せっかく赤字覚悟の限定販売で「コミュニケーションカメラ」という新しいコンセプトの市場探索を行った1年の成果が「ストラップを取り付けられるようにした」だけというのでは残念だ。

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