BBC News

2016年2月5日

中国政府に批判的な書籍を扱う香港の出版関係者が昨年秋以降、相次いで失踪した事件で、失踪の原因になったと一部でみられている習近平国家主席に関する暴露本の共同執筆者だという男性が、本をウェブ上で公開したことを明らかにした。

米国在住で「シー・ヌオ」という筆名を使う共同執筆者は、BBCの取材に対し、本を公開したのは中国政府に挑戦するためだと説明。失踪した関係者が責任を問われるのは、不当だと主張した。

シー氏は「なぜ(中国)政府はニューヨークまで来て私たちを裁判所に訴えないのか」と語った。

失踪者たちは中国当局に拘束されていたことが明らかになっている。

一部の中国アナリストは、「習近平と愛人たち」と題された本の出版を準備していたことが中国政府の怒りを買い、拘束に至ったのではないかとみている。

出版関係者らが意思に反して中国に連れ去られ、超法規的扱いを受けているとの指摘に、海外でも懸念の声が出ている。

出版社「マイティ・カレント・メディア(巨流)」と関連会社の「銅鑼湾書店」の共同経営者、桂敏海氏はタイの別荘に滞在中だった昨年10月17日以降、行方が分からなくなった。同じ時期には従業員3人も失踪した。

その後、桂敏海氏は今年1月に中国の国営テレビに登場し、10年以上前の自動車事故で死者を出した罪を償うために中国当局に出頭したと語った。一部では「自白」は強制されたとみられている。

昨年末には、「銅鑼湾書店」の株主、李波(ポール・リー)氏が香港から失踪し、のちに中国本土にいることが判明したが、旅券などは持ち合わせていなかったもようだ。

中国本土の当局が司法権を持たない香港で出版関係者が相次いで連れ去られたことには、国際的な非難が集まっている。

香港では、中国指導部に関するゴシップ本が多数出版されており、読者の人気も高い。ほぼすべてが本土の読者向けだ。

李波氏は自身の失踪前に記者に対し、失踪した同僚たちについて、特に注意を要する本の出版を止めるために拘束されたとの見方を語っていた。しかし専門家の中には、どんなに扇動的な内容でもたった1冊の本が理由で拘束されることはないという意見もある。香港の「発禁本」業界への警告だと考える出版関係者もいる。

シー・ヌオ氏によると、習主席の過去の恋愛に関する本は2014年に完成していたものの、中国政府関係者の訪問を受けた桂氏は出版を見送った。

本のもう一人の共同執筆者とされる人物は身の安全のため、身元を明らかにしていない。本の大半はこの人物が執筆したとみられる。

シー氏は、「本を公表することにした。中国当局と習主席に『あなた方は間違っている』と言いたい。『完全に間違っている。5人を解放しろ。彼らを家に帰せ』と言いたい」と語った。

本は、粗野ともいえる簡潔な文章で書かれている。実在の人物に関するフィクションだとあいまいな体裁を取っているが、習氏の恋愛話や2回の結婚生活中の出来事だという内容がつづられている。

このような本は珍しくない。「巨流」の書籍紹介には、中国指導部のプライベートを暴いたと主張する本のタイトルが多い。

例えば、習近平の一族、習近平の裏庭の火事、書記長の8つの愛、などだ。これらの本がしっかりした取材に基づくものだとは考えられていないが、刺激的な内容が中国政府の怒りを買っている。

香港のベテランジャーナリスト、程翔氏は、「今回の失踪事件は香港の『発禁本』市場を一掃しようとする中国共産党の取り組みの一環だ」と指摘した。

中国政府は、香港の出版業界を標的にした指令を2013年に決定し、毎年更新している。「反革命的」な出版活動を止め、そのような出版物が本土に入ってこないようにするのが目的だ。

「発禁本」

なぜ「発禁本」がこれほどの人気を集めるようになったのか。独立系出版社の香港新世紀出版を創業した鮑朴氏は、中国の政治ゴシップを扱う本は1995年に爆発的な人気を集めるようになったと説明する。同年には陳希同・北京市党書記(当時)が汚職スキャンダルで失脚している。

鮑氏は、「それまでは、政治本はとてもまじめな内容だった。陳氏失脚の後、中国の政治スキャンダルを扱った安易な書籍が流行した」と語った。

1990年代半ばは、海外旅行をする本土の富裕層が増えた時期とも重なった。彼らの多くは香港を経由して海外に出た。

取材もそこそこに、素早く本にすることを重視するこれらの本が絶頂期を迎えたのが2013年だ。一時権勢を誇った薄熙来・元重慶市党委書記の失脚で材料に欠くことはなかった。

鮑氏は、薄熙来元書記に関連した本が、13年には150冊出版されたはずだと語る。そのうち半数は桂敏海氏の出版社が扱っていた。

「発禁本」市場

このような本の市場規模を知ることは容易ではないが、業界関係者によると、「巨流」はこのジャンルに特化した出版大手3社の一角を占めていたという。

中国の民主派知識人らが集まる「中国独立ペンクラブ」の貝嶺会長によると、「巨流」は月5冊、年50冊のペースで出版し、市場の3分の1を占めていた。

2012年以来、桂敏海氏の出版社で本を出してきたある人物は、1冊を約1カ月で執筆すると語った。通常、本が売れるまで執筆料は支払われないという。

売り上げ1冊あたり、3ドルもしくは価格の15%が支払われる。一部の本では、執筆者は全く報酬を得ないが、書店が大きな利益を得ることがある。1冊の執筆で一番お金がよかった時は、3万5000ドルが手に入ったという。「銅鑼湾書店」の配本部門は収益が好調だった。

読者

鮑氏によると、これらの本のほぼすべての読者が本土の人々で、秘密の多い中国政治の裏側を垣間見ることを渇望している。

香港では言論の自由が認められており、中国本土と違いゴシップ本も法律上許されている。

2015年には、中国本土から4600万人近くの観光客が香港を訪れた。これは住民の数の6倍に当たる。観光客の一部にとって、香港中心部の銅鑼湾にある通りに面した、桂氏の薄汚い書店をのぞくことは重要な旅程になっている。

書き手

桂氏とビジネスパートナーの李波氏自身も多数の本を執筆しており、香港、北米、欧州の作家と協力していた。

多くは海外に住む中国反体制派で、移住先の言葉は流暢でない。新しい環境に慣れようとするなかで、書くことは生活費を得るまっとうな方法と考えられている。

政治

すべてではないが多くの本は中国指導部の中枢を批判した内容だ。実際、李波氏が最近習近平氏について執筆した本は全く中傷的ではなく、高い評価も受けた。

程翔氏は、中国指導部がこれらの本を一掃しようとやっきになる理由の一つには、ライバル関係にある政治派閥が相手を貶めようと、桂氏のような人物に情報を漏らすことがあるからだと指摘する。

江沢民元国家主席の派閥が現在権力を握る習氏と対立しているとの見方もある。

程翔氏は、香港の出版市場は中国のトップ政治の一部になっていると話す。もしそうなら、スウェーデン国籍を持つ桂氏や英国籍の李波氏の拘束によって「国内」の取り締まりが国際問題に変化し、大きなリスクを抱える危険なゲームになったと言えるだろう。

失踪した香港の書店関係者

1. 桂敏海(51)。タイ滞在中の2015年10月に失踪。中国生まれのスウェーデン国籍。「マイティ・カレント・メディア」オーナー。

2. 呂波。2015年10月に香港北郊の中国本土側で所在確認後、行方不明に。「マイティ・カレント・メディア」ゼネラル・マネージャー。

3. 張志平(32)。2015年10月に中国本土側で所在確認後、行方不明に。「マイティ・カレント・メディア」ビジネス・マネージャー。

4. 林栄基(60)。2015年10月に香港で所在確認後、行方不明に。「銅鑼湾書店」店長。

5. 李波(65)。「ポール・リー」としても知られる。2015年12月に香港で失踪。「銅鑼湾書店」株主で英国籍。警察に捜索願を出していた妻は今年初め、中国本土から連絡があったとして捜索願を撤回。

(英語記事 Hong Kong's missing booksellers and 'banned' Xi Jinping book)

提供元:http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-35499359

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る