中島厚志が読み解く「激動の経済」

2009年11月13日

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中島厚志 (なかじま・あつし)

経済産業研究所理事長

1952年生まれ。東京都出身。東大法学部卒業後、75年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。パリ興銀社長、日本興業銀行調査部長、みずほ総合研究所専務執行役員チーフエコノミストなどを経て現職。著書に『統計で読み解く日本経済 最強の成長戦略』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『日本の突破口―経済停滞の原因は国民意識にあり』『世界経済連鎖する危機―「金融危機」「世界同時不況」の行方を読む』(東洋経済新報社)など。

 世界経済の回復は続いている。とりわけ、金融危機の震源地ではなかった中国やアジア諸国では景気回復が顕著である。中国の今年7~9月期の実質GDP成長率は前年同期比+8.9%となって、経済成長は一段と加速している。韓国では、9月の鉱工業生産指数が前年同月比で11%増と、リーマン・ショック時の水準を大きく上回った。シンガポールでも、7~9月期の実質GDP成長率(速報値)は前年同期比でプラス(+0.8%)であり、リーマン・ショック時点の経済水準を回復した。

 一方、金融危機の震源地となった米国や危機の影響が深刻な欧州では、景気は回復しつつも緩やかなものに止まっている。米国の7~9月期の実質GDP成長率は、堅調な個人消費や住宅投資などに支えられて前期比年率+3.5%と良好な成長となった。しかし、これは自動車買い替え支援策、住宅ローン・個人所得税減税などの積極的な経済金融政策に支えられた面が強い。実際、自動車生産が今回の成長率に寄与した度合いは、成長率のほぼ半分の1.7%とも計算される。

 ところが、この自動車買い替え支援策は8月に打ち切られており、現在の景気対策も10月以降前期比での支出増はなくなって、景気押し上げ効果は望めなくなる。しかも、住宅ローン減税は延長される方向ながら、財政赤字は大幅に拡大しており、追加的な景気対策を打つ余地は乏しくなっている。また、比較的堅調な個人消費も、当面一進一退の動きとなろう。雇用悪化が持続しており、消費を支えてきた株高も今後とも続くとは思えないからだ。

 このような状況は欧州も同じである。欧州主要国の景気を支えてきた自動車買い替え支援策は、ドイツでは9月初めに打ち切りとなった。欧州主要国の雇用悪化も止まっていない。さらに、中東欧諸国の経済危機は深刻であり、金融機関の損失処理も米国より遅れているなどマイナス要因は多く、欧州経済の回復は米国よりも後ずれしよう。

 中国経済も万全ではない。インフラ建設や設備投資は旺盛である。しかし、個人消費の伸びが一層高まるところまではいっておらず、景気がバランスの取れた形で自律的に回復しているとまでは言えない。たとえば、農村部での家電購入に政府が補助金を出す「家電下郷」は、8月、9月と2ヶ月間前月比で減少に転じている。一方で、いままで通貨供給量や銀行貸出の伸びが大きいことから、株式市場や不動産市場ではバブル的な要素も出てきている。中国政府は、景気対策を強力に推進しながら資産バブルを抑制するという難しい政策対応を迫られている。

世界経済も日本経済も息切れか

 世界経済は、経済対策に大きく下支えされた中で緩やかな回復を遂げている。しかし、財政赤字の拡大などから従来の経済対策を打ち続けることは難しくなりつつあり、特に欧米では効果が息切れしかねない状況となっている。2010年にかけて、景気は緩やかな回復が持続するも、来年前半にかけては一服感がでる可能性はある。

 日本の景気回復も主要国と同じような展開を辿っている。企業業績は在庫調整の進展や輸出の持ち直しで最悪期を脱しつつあり、緩やかに景気は回復している。しかし、個人消費の底入れはエコカー減税やエコポイントなどに支えられた面が強く、景気回復は自律的なものとはなっていない。

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