BBC News

2016年2月12日

パラブ・ゴーシュ科学担当編集委員(BBCニュース)

重力を完全に理解しようと探求する科学者たちが、驚異的な発見をしたと発表した。

地球から数十億光年離れた場所で2つのブラックホールが衝突することによって、時空のゆがみが発生しているのを観測したのだ。

この重力波の初観測は、天文学にとって新時代の幕開けだと国際研究チームは言う。

発見は数十年と積み重ねてきた研究の成果で、いずれビッグバン解明の手掛かりとなるかもしれない。

国際研究チーム「LIGO(ライゴ)」が研究成果を11日、学術誌「Physical Review Letters」に発表した。

LIGOは世界各地で複数の研究観測施設を運営。長いトンネルを通してレーザー光線を発射し、時空を伝わる波を観測しようとしてきた。

観測対象となるシグナルはきわめてかすかで、「インターフェロメータ」と呼ばれる観測機器がシグナルを感知した際の振れ幅は原子の幅の数分の一に過ぎない。

しかし今回、米国内の別々の2カ所にあるLIGO施設が、ブラックホールの合体を観測。そこから発せられる重力エネルギーは太陽の質量の3倍だった。

「重力波を観測しました」。LIGO計画の責任者、デイビッド・ライツィ・フロリダ大教授はワシントンの記者会見で報道陣にこう発表した。

「重力波を通じて宇宙が初めて我々に語りかけました。これまで我々は耳が聞こえなかった」

国際研究チームの欧州リーダー、独ライプニッツ大学教授でマックス・プランク重力物理学研究所所長のカルステン・ダンツマン教授は、今回の観測についてBBCに対して、ヒッグス分子発見以来、最も重要な科学的発展のひとつだと評価。DNA分子構造の発見に匹敵し、「ノーベル賞ものだ。間違いない」と述べた。

「重力波を直接観測するのはこれが初めてだ。ブラックホールを直接観測するのもこれが初めてで、相対性理論を裏付けるものだ。観測されたブラックホールの概要は、アインシュタインがほぼちょうど100年前に予測したものと完全に合致する」

ブラックホールに詳しいスティーブン・ホーキング博士も同意見だ。BBCニュースの単独取材に対して博士は、この観測は科学史において重要な分岐点だと思うと述べた。

「重力波によって、宇宙をまったく新しい方法で観測できるようになる。重力波を観測できるようになれば、天文学に革命がおこり得る。二重ブラックホールの観測はこれが初めてで、ブラックホールの合体が観測されるのも初めてだ」

「(アインシュタインの)一般相対性理論を検証するだけでなく、宇宙の歴史におけるブラックホールを観測できるかもしれない。極限のエネルギーを発しているビッグバンの最中の、最初期の宇宙の痕跡さえ見えるかもしれない」

国際研究チームの一員のガブリエラ・ゴンザレス米ルイジアナ州立大学教授は、「ブラックホールの合体が発する重力波を発見した。とても長い道のりだったが、これは始まりに過ぎない」と述べた。

「この天体を観測できる装置が整った今、二重ブラックホールがそこにあると分かった今、宇宙にじっと耳を澄ます作業が始まる」

米ワシントン州ハンフォードとルイジアナ州リビングストンにあるLIGOのレーザー・インターフェロメータは、再調整を終えて昨年9月に観測を再開したばかり。観測を再開した昨年9月14日午前10時51分(グリニッチ標準時)に、ブラックホール衝突のシグナルを感知した。

観測データはグラフ上で、対照的な図を描く。細かく揺れる線が徐々に上昇してから、いきなり消えるのだ。

「ブラックホール同士の衝突を表す、美しい印を見つけた。そして素晴らしいことに、アインシュタインの数式の数学的解析と完璧に一致する。あまりに美しすぎて本当のこととは思えなかった」とダンツマン博士は言う。

国際研究チームに英国から参加している主な研究者のひとり、シーラ・ローワン・グラスゴー大学教授は、重力波の初観測は「とてつもなくワクワクする」旅路の始まりに過ぎないと話す。

「ここ地球にいながらにして、十億年余前に起きたブラックホールの合体によって宇宙の作りそのものがかすかに伸縮するのを感じ取ることができるとは、驚異的だ。観測装置をつけた時点ですでに宇宙は待機していて、『こんにちは』と言おうとしていた。すごいことだ」

重力波の観測が可能になることで、天文学者が「暗い」宇宙と呼んできたものの研究がついに可能になる。宇宙の大部分は、現在の天体望遠鏡技術では観測できないこの「暗い」宇宙だからだ。

完璧な探査

ブラックホールや、中性子星(質量の大きな恒星が崩壊し、地球上の都市並みの大きさに縮小した天体 )と呼ばれる奇妙な物体も、調査できるようになる。そればかりか今まで以上に深く、宇宙を深く「見る」ことができるようになり、それに伴い時間をさかのぼって観測できることになる。いずれはビッグバンの瞬間さえ感知できるようになるかもしれない。

英カーディフ大学のバーナード・シュッツ教授は「重力波はあらゆるものを通過する。何を通過してもほとんど影響を受けない。つまり、最高のメッセンジャーだということだ」とBBCに話した。

「重力波が伝達する情報は、天体が最初に発したものと完全に一致する。天文学でこれは珍しいことだ。私たちは自分たちのいる銀河系でも光を観測できない部分がたくさんある。塵(ちり)が邪魔するからだ。宇宙はある時期以前の宇宙は光に対して不透明だったので、ビッグバンの初期も観測できない」

「重力波によって、いずれはビッグバンそのものが見られると期待している」

加えて、重力波の研究はゆくゆくは、物理学者が取り組む最大の難問のいくつかを解決する手助けになるかもしれない。量子力学に重力を組み込む量子重力理論の構築などがそのひとつだ。

今のところ一般相対性理論は、宇宙の大局的な理解に非常に役立っているが、宇宙の極小な動きについて検討するには量子力学の考え方が必要となる。ブラックホールのように重力が極大に達している場所を研究できるようになると、宇宙のこうした問題について新しくより正確な検討が可能になるかもしれない。

科学者は40年以上前から、重力波の検証可能な具体的証拠を追い求めてきた。

アインシュタイン自身は、実際の観測は技術的に不可能かもしれないと考えていた。

アインシュタインの一般相対性理論は、恒星や惑星などの天体は周囲の宇宙をゆがめることができると提案する。これはたとえば、薄く引き伸ばしたゴム板にビリヤードの球を載せると、表面が沈むようなイメージだ。

この空間のゆがみから重力が生まれる。ビリヤードの球が作りだしたくぼみに豆が転がり込むように、ゆがんだ空間に天体が引き寄せられるのだ。

画期的な瞬間

アインシュタインは、たとえば恒星の爆発などによって空間の重力が急激に変化した場合、重力エネルギーの波が光速の速さで宇宙空間に広がり、拡散しながら空間を伸縮させていくだろうと予測した。

とてつもなくささやかな規模ではあるが、現代の最新技術がこの予測実証に挑戦し、成果を出した。

ワシントンとルイジアナ両州にある観測装置の研究開発の大半は、独ハノーバーにある小型の装置「GEO600」で行われた。

ローワン教授は「(重力波を)計測できる装置を作れるとは、驚異的なことだと思う」と話す。

「若い人たちにとって、実にワクワクする展開になっている。フロンティアをどんどん切り開くこうした発見をきっかけに、大勢の若者が科学と工学に進むことになる」

重力波とは

・重力波は一般相対性理論で予測されていた

・存在は推論されていたが、直接の観測は今回が初めて

・激しい出来事によって時空をゆがませる波を指す

・加速した物体から生まれた波が光速で拡散していく

・合体するブラックホールや中性子星などから観測可能と予測されていた

・LIGOは長いL字型のトンネルからレーザー光線を発射する。重力波はこの光線に影響を与える

・重力波の観測を機に、かつてない形で宇宙を研究できるようになる

(英語記事 Einstein's gravitational waves 'seen' from black holes)

提供元:http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-35557112

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